讃Heels!06−悪役のみにあらず

悪人・悪役、狼藉を働き、悪行を重ねる者のこと、それを演ずる役どころ・・同じ出だし3度目になるので もうやめておく。いい加減叱られそうだw。

そんなことより 今回から「viva!Heels!」を「讃Heels!」と改題した。取り扱い上文字数の都合である。以後、お見知り置き願いたい・・。

・・「悪役」というものをわざわざシリーズの中に置いているのは、単に私自身が好みであるからというのもあるが、その役柄自体の自由度が高く、同時にその自由度を活かすべく役者の器量が求められが故に、ユニークかつ熟練の役者さんが多いからである。

無論、主役・ヒーローを張られる役者さんが器量少なしということではなく、往年の名優の多くはそう呼ばれる資質に溢れているからこその名優なのだが・・。 一つの作品・ストーリーの中で主役というのはどうしても その形に制限がかかりやすい。主役そのものが作品を象徴しているからともいえる。作品の方向性が決められている以上、演じ方ひとつでも役者の考えが中々通り難いものなのだ。

 

反して悪役に目を向けると、一定の役割りとスタイルを満たしていれば、役者側の工夫や進言が認められることも少なくない。VivaHeels第01回 天津敏 氏や02回 安藤三男 氏らも、悪役の風貌形成に進んで取り組まれていた。自ら役作りを楽しんでいた節が多々見られる。言わば悪役とは自分を発現できうる器でもあったのだろう。

・・ということで “VivaHeels / 悪役” シリーズを設けているわけだが・・、 同じく悪役を演ずる俳優さんでも 当然その人ごとに取り組み方も異なれば歩む道も異なる。徹底して悪役俳優の道を突き進む人、時に機会あるならば “普通の人・脇役” なども演じてみようという人、様々である。

本日、登場いただく “原 健策(はらけんさく 1905年4月23日 – 2002年2月7日)” 氏は、どうだろう・・元々は主役を立看板とするスター俳優でありながら渋い脇役方も努め、・・どころか、三下役、汚れ役も務めれば、挙げ句 悪役までもを流暢にこなしてしまう “超” の付くスーパーマルチプレイヤーだったようだ。

 

・・最近では殆どその名を聞くこともなくなったが、昭和も半ばまでは時折り耳にした言葉「新国劇」。 幼かった自分には当時よく分からず、何やら舞台演劇のひとつくらいにしか認識していなかった。

◯ャニーズ系でも通用しそうな若き日の “一文字隼人”!(右下)

「新国劇」とはそれ以前、大正時代に勃興した新演劇運動 “新劇(歌舞伎など旧来の演出を脱却した近代演劇思想)” を母体に、新たに興された劇団であり その舞台のことをいう。 古いところでは 大友柳太朗、大河内傳次郎、辰巳柳太郎、後に 緒形拳、石橋正次、若林豪らを輩出している。ライダー2号 佐々木剛も新国劇出身である。

その新国劇の草創期に、大河内傳次郎とともに新国劇の看板役者を担っていたのが “原 健策(当時は原 健作)” であった。 その後、第二新国劇を経て映画業界へと転身、以降、時代劇を中心に様々な役どころをこなしてゆく・・。

 

何せ 主役から脇役、武家の頭領からヤクザ者、名も無さそうな下男から果ては怪奇な悪漢まで何でも・・それも十全な演技力でこなしてしまう。先にスーパーマルチプレイヤーと言ったが、単に適応力が高いだけでなく、如何に演技が難しい役どころでも原 健策に頼めば何とかなる・・こんな役者、数多の脚本・監督が放っておくわけがない・・。 “難役の健さん” の異名で引く手数多だったそうだ。

そんな 原 健策がテレビ時代を迎え、「素浪人 月影兵庫」や「銭形平次」など多くの時代劇ドラマにゲスト出演する傍ら、固定キャストの悪役として登場したのが「仮面の忍者 赤影」第3部、根来十三忍の頭領 “暗闇 鬼道(くらやみきどう)” であった。 3部では悪役ダブルヘッドな演出で、梟雄 夕里弾正(汐路章)を向こうに堂々と渡り合った。

付けるも付けたり その名のごとく、豪胆・傲慢というよりは “鬱陶しい暗さ” と “底の知れない魔力” を湛えたダークサイドな悪の首領を見事に演じている。上でも挙げた安藤三男 / プロフェッサー・ギル に匹敵するダーク(な)ヒーローと言ってよかろう・・。

只、ギルに比べると少々ハンサムな顔立ちが見えてしまうが・・w 何せこちらは巨大化の忍術まで持っているという、当時としては掟破りな悪役キャラであった(安藤三男も後のモンスター教授で巨大化を果たしている)

今篇で今ひとつ精彩に欠けた夕里弾正(汐路章・右下)はその鬱憤を「魔風篇」で爆発させた?

 

また 当番組と入れ替わるかのように赤影終了の翌年 放送された「妖術武芸帳」。 佐々木功(後に歌手として大成する ささきいさお)扮する鬼堂誠之介の敵役 “毘沙道人(びしゃどうじん)” として登場する。

妖術師軍団を率いる頭領であり、前述の暗闇鬼道に輪をかけて陰妖怪々な風貌を放ちながら異国の魔人を演じていた。 形としては暗闇鬼道に かなり似た役どころなのだが、きっちりそのキャラクターを使い分けている。さすが “難役の健さん” !w

只、残念ながら番組そのものの初期展開が もうひとつモタ付き気味・・というか、凝り過ぎて子供向けとしては解りにくい・・といった印象を与えたためか視聴率を得られず、1クール13話という短期打ち切りとなってしまった。後半に進むに連れ練度は増しつつあったので、出演者・視聴者共々無念なこと極まりなかったのではなかろうか。

奇抜な “幻覚妖術” の演出がウリだった。

・・が、一刀両断、首を落とされても自分でその首を拾ったり、”ズ・ズズ〜ッ・・” と、胴体からまた首が生えてくる(ように見える幻術)毘沙道人の恐ろしき佇まいは、大声を張上げ手荒れ狂う魔物などより余程恐ろしく、そのか弱きとさえ思える台詞回しとともに、当時の私のトラウマとなったことに疑いはない。

 

その後も 近衛十四郎主演「花山大吉」や「銭形平次」「水戸黄門」「柳生十兵衛」「大岡越前」など、多くの著名作品に客演を果たし、ありとあらゆる役回りを演じながら ドラマ世界の拡充に努めていった。

いかなる役回りも十全に果たし 皆から頼られる・・というのは、反面から見れば “何でも屋” であり、ある意味 “器用貧乏” と言えるのかもしれない。 しかし、それならお前やってみろと言われれば、尋常なスキルと研鑽ではとても追いつかない難役でもある。

終始、ヒーロー役・二枚目役を貫くのも道ならば、徹頭徹尾、マルチプレイヤーを貫き通すのもまた人生を賭けた道なのである。

誰も真似出来ない程の高度な習熟をもって、あらゆる人間を演じ切る力量。 “難役の健さん” とは演技そのものを超えて、彼自身の人生を指していた と言っても過言ではなかろう・・。

 

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