子供の頃、親父が舐めていた・・というか口に入れていたように思う。私も何度か含んだことがあるが独特の苦味、薬草感である。 やや鈍色に光る銀の粒、言うに及ばず皆様(昭和生まれなら特に)ご存知『仁丹』である。

何というか、何事も慣れ・・とでもいうのか、あんな例えようの難しい苦さでも、舐めているうちに多少なりとも慣れてしまう。言ってみれば口の中の(メントールのような)爽快感・・なのだろうが、やっぱり苦い・・薬っぽい。 もひとつ手が出ない。無いと困るものでもないので余計に手にしようと思わなかった・・。
そもそも仁丹って、何の効能があったのだろう? やはり口の臭い消しかなんかだろうか? と見てみれば「気分不快、口臭、二日酔い、宿酔、胸つかえ、悪心嘔吐、溜飲、めまい、暑気あたり、乗物酔い」とある。 予想どおり口臭抑制は含まれていたが、他にも色々・・中々に多用途である。
有効成分はやはり生薬が主体のようでメントールも配合されている。気分を好転させるような薬効から、よくは分からないが主成分の作用で興奮や悪心を沈静化させ、爽快感作用で気持ちを上向ける・・といった感じだろうか?

只、用法に「大人(15才以上)1回10粒・・」とある。申し訳ないが あれを1回に10粒舐めるのは自分にはキツいw。 まぁ確かに気持ち悪くて鬱々とした状態のときに服用すれば、その苦味っぽい刺激から改善効果も期待出来るような気もするが・・。
二日酔い? ん~・・そもそも二日酔いするほど飲めないんだよね・・(^_^;)
確かに・・と言っていいのか、その苦味からか当時から若い世代にはあまり受けなかった気がする。挙げ句 昭和後半には既に “高年オヤジの舐めるもの” みたいな感覚が付いていたようにも思える。
当の “森下仁丹” も対応を講じたのか、はたまた新たなニーズ拡張を狙ったのか、生薬イメージを払拭せんと「梅仁丹」そして「グリーン仁丹」の開発・発売に踏み切った。(後に「レモン仁丹」も発売)
当時の社の意向など知るべくもないが、おそらくは一定の成果を得たのではなかろうか。 薬草臭さや苦味を大半無くして果実風味を押し出し、若手世代へのアピールが叶ったのではないかと思う。(自分の周りの人だけかもしれないが)小学から高校にいたる学生たちの間でも そこそこ流行っていた記憶があるのだ。
数えたわけではないが「梅仁丹」を好んでいた者が多かったようにも思える。特に女子に多かったんじゃないかな・・。
私的には「梅仁丹」よりも「グリーン仁丹」や「レモン仁丹」の方が好みだった。
完全に個人の嗜好ではあるが、私にとっての梅とは表面に塩の結晶が出来るくらい辛いものが梅であり(かなり偏ってるねw)、甘い梅はあまり好みではない。 私の在地である和歌山県は全国一の梅の生産地だが “ハチミツ漬けの梅” などという加工産品もある(それも高級品)。地元愛がないのか! と叱られそうだが正直カンベンである。 従って ロッテ「小梅」(通称:小梅ちゃん)も食べても2個くらいである・・。
話がずれてしまったが、ともかくそれなりに “バリエーション仁丹” は売れていたのだ。 只まぁ、生薬成分を極少なくして大半味わいやすくした仁丹は、薬というよりも殆どタブレット化してしまったのも また事実なのであろう。
創業百年を超える医薬品メーカーとして(2023年現在 創業130周年)本分に立ち返ったのか、単に時代の流れで売れ行きが捗々しくなくなったのか、「梅」「グリーン」「レモン」共々 バリエーション仁丹は全て廃盤となり、元々の真正「仁丹」だけが毅然としてラインナップに残っている。(梅仁丹は のど飴タイプになって販売されている)
130周年、森下仁丹は明治時代に創業した医薬品メーカーである(当時は森下南陽堂)。それも仁丹に見るように 割りとユニークな発想、そして仁丹の名の由来でもある「仁(思いやり)を 丹念に・・」を社是とする篤実な面を併せ持った会社でもある。
何せ明治期、社会に蔓延していた梅毒予防のため、当時いち早くフランスからサック(今で言うコンドーム)を輸入し「やまと衣」という名で販売したのだから画期的といえよう。現在の仁丹のイメージからすれば “あれま!” に思える沿革でもあろう。
「済世利民」民の健康と世の安寧に資すること
「報本反始」自然や祖先から受ける恩に報いること
「予防医学」先ずは病気を予防することから・・
何ともいえず薬草臭さと苦味に満ちた「仁丹」、されど そこから沸々と湧き上がるような爽快感。彼の薬一粒に見る奥深さは、森下仁丹が志向し 歩んできた道そのものなのかもしれない・・。

因みに森下仁丹130周年のスローガンは
「時代をもっと、オモロくしたい。」だそうである。
もひとつ因みに仁丹パッケージマークになっている人物は、旧ドイツの宰相ビスマルク・・ともいわれるが、実際に特定の人物ではなく、また、大礼服を着ながらも軍人でさえなく、 “薬の外交官” なのだそうである・・ やっぱりユニークな会社である。