『トヨタ・クラウン』といえば 昭和30年(1955年)1月に初代RS型を発売以来、70年近く続く長命ブランドであり、日本を代表する高級車でもあろう。
私にとって記憶に残る最古の自動車体験は、実はクラウンである。
それもタクシー(昭和20〜30年代はタクシー需要が高かった)ではなく、個人所有のクラウンである。 以前の記事「プカプカ」でも触れた、当時 世話になっていた会社の社長さんから借りたのであろう。ある日 その車に乗ってドライブ・・ということになったのだと思う。
思う・・というのは、まだ私が3~4歳のことであって記憶が半ば霧の彼方だからである。
それでも、(現代から見れば)ややずんぐりとした大判で漆黒の車体、そして 前後両側に開く “観音開き” であったことをしっかりと憶えている。堂々の “RS型 初代クラウン”。 乗った後 どうしたかなどは全く憶えていない・・w。 そのようなことを知るべくもないが、当時 画期的でもあった “トヨグライド”(コラムシフト半オートマチック機構)装備車であったのかもしれない・・。
記憶の中で明確に “車種” のひとつとして残っているクラウンは “S4#型 2代目クラウン” である。 初代と打って変わり、全体的に平たく低い感じになった。重厚さは無くなったがスタイリッシュになった。 公用車にも多く採用され、テレビドラマなどにもよく登場したので、昭和中盤生まれの知るクラウンのスタンダードにもなっているのではなかろうか・・?

当時、買っていた子供向け雑誌の中で「日本で最高額の車は?」というクイズがあって、「答えは トヨタ・クラウン ¥百万円!」というのがあったのを記憶している。 今では軽自動車も買えない値段だが、当時の価値としては¥600~800万だったのかしらん・・。
“3代目 S5#型” になると、クラウンも少しづつ “パーソナルカー” のイメージを強めてくる。 いかにも会社の社長さん、お医者様、公用の車 御用達といった感じから、リッチな個人所有車という立ち位置にシフトチェンジしてきた。 今はもう見ることもないレザートップも用意されていて、お洒落さんなクラウンでもあった。
昭和時代のクラウンCM 俳優といえば、言わずとしれた “山村聰”、”吉永小百合” 両氏だが、何故だろう? この3代目クラウンを見るたび、私の脳裏をよぎるのが “山口崇” 氏である。・・何となく顔立ちの雰囲気がにているからか・・?w
そして、本日のお題、4代目 “S6#/7#型” クラウンである。
クラウン史上 最大の失敗作といわれている・・。
「スピンドル・シェイプ」と呼ばれる 前後に絞られたボディラインを施して、かなり大胆なイメージチェンジを図っている。真横から見ると前後のバンパー端がせり上がっているため “舟形” といえなくもない。そのバンパーはかなり時代を先取りした “カラードバンパー” であった。 さらにボンネットはハザードやウィンカーを上方に組み込んだ “段付き” スタイルと凝ったものになっている。
大きな車格に、全体的に流線なスタイルから「クジラ」と渾名された。言い得て妙なニックネームだと思う・・。
・・で、これが極めて不人気であったそうだ・・。
ネット上の記述によると、”デザインが敬遠された” “グリル開口部が小さくなったため夏場にオーバーヒートを起こした” “二段ボンネットで見切りが悪くなった” などが挙げられている。 この4代目において販売台数が日産の “セドリック・グロリア” に抜かれたそうだ・・。
只、個人的に思うに この4代目、それほど不出来な車であったのだろうか・・?
グリル面積が小さくなったというが、見た感じ先代とそれほど変わらないように見える。(メイングリルがダミーというなら話は別だが)どちらかというと通風やエンジン冷却の設計そのものに問題があったのではなかろうか? ボンネット端の見切りの悪さは そうなのかもしれない。端角と見切ったその先にまだ少しボディがあるのだから・・。 只、こういった車はこのクラウンだけでもなかろう・・。
“セドリック・グロリア” はこの当時 “230系”、後の “330系” に続く ある意味 “セド・グロ黄金期” 登り坂の時でもあった。 2代目クラウンのように平たくも重厚、外国車を思わせるようなフォーマル&ゴージャスなイメージに売れ行きも好調な時代。 クラウンユーザーが戸惑っている間に、一時的に売れ行きが逆転することもあったのだろう・・。 とはいえ、この4代目クラウン、3年半の販売実績27万台なのだから それほど悪い数字とも言えないと思うが・・。
つまるところ、この “S6#/7#型” に課せられた “不評のクラウン” という汚名は、大半 “変わり過ぎたデザインと方向性に既存のユーザーが馴染めなかった” ということに尽きるのではなかろうか。 当時の世風からいって “クラウン” とはまだまだ “格調高きオーソドックスな車” であることが求められたのかもしれない。
ここで、ふと思うのは・・。 昨2022年発表、本年度中に発売予定されている “SH35” 最新型クラウンである・・。
「これ、クラウンか・・?」 というのが正直な感想である。
件の4代目から名乗り始めた “ロイヤルサルーン” への標榜はもう過去のもの。”クロスオーバー” “スポーツ” “セダン” “エステート” に多角化された。 デザインや車そのものの好みは別として、70年に渡って培ってきたフォーマルなイメージはもうそこにはない・・。 いうなれば “新しい時代の多角的な価値を具現化したクラウン” ということなのだろう・・。
つまり・・同じようなことが世間的に、50年前にも起こっていたということなのだろう。
時代は繰り返されるのか、それとも、単にこのオツムや感覚が硬直化して今の時代に追い付いていけてないだけなのか・・。
個人的に4代目クラウンは嫌いではない。どちらかといえば好きな方である。
クラウンの歴代としてはやや異端であったかもしれないが、その挑戦的かつ流麗なスタイルは好みであった。 当時、全長12cm程の当ミニカーを持っていたせいもあるかもしれない(白のクーペ、ダイヤペット製)
私にとっての4代目は決して失敗作ではなかったと思うのだが・・。
最新型クラウンがトヨタの思惑と標榜どおり、売れ筋となるかどうかはまだ分からない。
しかし、昔と違って車に求められるものも大きく変貌を遂げてきた。この先も変わり続けていくのだろう。 単なる一車種ではない、トヨタのステータス・シンボルであるクラウン。 現行(私には)馴染めずにはいるものの、通算70年に及ぶ長命のブランドが、未来をどう演じていくのかが楽しみではある・・。