元々、夜遊び好きでもなかったので、赤提灯を求めてウロウロと・・という感じではなかった。 そもそもそんなに飲まんし、”打つ” 事に弱いのは自分で分かっているし、無駄な金の掛かる “小指” は好みに合わんし・・といったところ・・。
只、”夜” というものが全く好みの範疇外かといえば、そういう訳でもなく、夜の帳に包まれた道を ひとりバイクや車でゆったり流すのは好きである。ここら辺は同好の士も多いのではなかろうか。
さすがに 60歳を超えてくると好き嫌いはともかく、夜目が利き難くなったり家人を心配させたりと、何かしら少しずつ制限が生じてくるが・・、それでも交通量も落ち着いた夜の道、隔離されたごとく車内で、お気に入りの曲を聴きながら走るのは格別のひとときでもある。
若い頃のとある夜、愛車の原付で流していた。20時位だったろうか・・。 基本田舎なので晩飯も過ぎた時間には かなり車の数も減る。気楽に・・そしてしっとりした気分に浸りながら黙々と走る。
ひとしきり周って、そろそろ家に帰ろうかと帰路の途中にあるトンネルを通った時、それに気付いた。
「あれ? ウインカーレンズ、白に換えたっけw?」
今は一部を除いて、そういう趣味はあまねく減ったが、原付き黄金時代? には “DAX” であれ “シャリー” であれ、果ては少し後の時代のスクーター群であれ、エンジンやクラッチ周りから外装に至るまで、様々な改造や改装を施すことが流行っていた。
ウインカーについても同様、基本オレンジ色のレンズカバーをわざわざ “白=透明” に換える。 それだけだと “白光点滅・整備不良” になってしまい、お巡りさんから「ハイ、コッチ、コッチ〜 ヾ(^^ ) カモ〜ン」されるので、中の電球だけ橙色のものに換えて点滅時は “オレンジ点滅” とする・・という、まぁ殆どドレスアップ要素のみの改装がよく見受けられたのだ。
自分は もひとつウインカー改装が好みではなかったので、ノーマル・オレンジ色のままだったのだが・・、このトンネルに入った途端、オレンジ色のレンズが透明に変わっていた。
上のセリフ部分でお気付きの方が殆どだと思うが、要するにトンネル内照明がオレンジ色だったのである。 オレンジ色の光はオレンジ色のレンズカバーでスペクトル反射を起こさず、大半を透過させてしまうので、目に届くのは光の強度のみ。モノクロ状態となって目に透明と誤認させる・・。
ま、それだけの話、一瞬の記憶の話である m(_ _)m
オレンジ色の光を放っていたのは「ナトリウムランプ」と呼ばれるもの。 昭和中盤(60年代)から平成の前半頃まで、トンネル内及び一部自動車道における夜間照明の定番であった。 正直、昭和男の脳裏には “夜の自動車道” のカラーイメージとして定着しているのではなかろうか・・。
管球内に封入されたナトリウムの蒸気に、発光管からの光を放電させることで強度の発光照明を可能にしている。 橙色に振った独特の発光色はナトリウム放電の特色であり、霧や車の排煙に左右されない透過性の高さ、引いては視認性の良さから道路・トンネル内の照明に用いられた。 発光効率が高く、運用コストが抑えられるメリットもあるらしい。
只、演色性(照らされる物の色を正確に映し出す性能)については良いとはいえず、上で書いたような まるっきり色再現を成し得ない結果をも引き起こす。 が、当時としてはさほど問題にならなかったのだろう。
しかし、平成中期以降、オレンジ色の夜間道路照明は減りつつある。交通量の多い道路、高速・自動車専用道などではそれが顕著で、それに付随するトンネルなどでも同様。 逐次、設備の更新とともに “白色光ランプ” への変更が進んでいる。
ナトリウムランプの中でも白色に近い “高演色高圧ナトリウムランプ” に、次いで “蛍光ランプ”、”セラミックハライドランプ”、そして現在は “LED” へと その主流を替えつつあるという。
理由としては、排ガス規制などによる大気状態の改善、より高い高効率化=運用コスト抑制、そして、防犯カメラに対する高演色性などがいわれている。
地方など 設備更新予算に余裕がなく、かつ 交通量の限られる道路・トンネルなどでは、未だナトリウムランプのオレンジ色の灯りが残っているが、これも遠くない先に全てLEDの光に置き換わっていくのだろう。 そのうち「日本最後のナトリウムランプ・トンネル!」だとか話題になる日が来るのかもしれないな・・。
世の流れは、あまねく高い方へ、早い方へ、細密な方へ、そして高効率な方へと流れてゆく。 トンネルや道路だけでなく家庭の照明も含めて、”灯り” も低波長(赤黃方向)から高波長(青白方向)へと移り変わってゆく。
それが理に適った進化だというならそうなのだろう・・。
只、まぁ・・ゆったり、のんびり、そして一抹の哀愁をも感じさせてくれる低波長、オレンジの灯火の方が馴染んでいるだけだ。 それが失われていくのが少しばかり寂しいだけだ・・。
完全に青白い光で満たされた夜の道路を・・、私はしっとりとした気分で流せそうにはない・・。