“change color”
10代後半から20代前半にかけて自分の中で “バイク” はかなりの部分を占めていた。若さ故の観念的な想いに当時の少々難儀な状況も手伝って、かなり偏った心持ちだったのだろう。
元々 目指していた進路はあったのだが、高校在学中にその望みが絶たれたこともあって、後は新たな目標も見つからず宙ぶらりん。そこに難儀な状況が到来、巻き込まれたことで半ばヤケになっていたのかもしれない。 行く先に光も見い出せないままバイクのアクセルを煽るだけの日々が続いた。

挙げ句、想いは堅実的な見立てから乖離し、生命を削るがごとき究極の世界、サーキットに身を投じることを夢想するようになっていた・・。
若さ故とはいえ、後にしてみれば赤面ものの思考の展開である。・・が、当時の状態からすればやむを得ない部分も少なからず・・で、あろうと思う (^_^;) その後も難儀な状況は10数年に渡って続いたのだから。
結局、レースに参加することなど一度も出来ず仕舞いだった。
レースどころか、バイクどころか、酷い時にはその日の食うにも事欠きかねない中、”家と家族” を維持し立て直すことで手一杯。破格の手間と費用の掛かるモータースポーツなど、夢のまた夢でしかなかったのだ。
だが、如何なる経済的・状況的な問題があろうとも、やる奴はやっているのだろう。 夢を叶える人とは、そういった芯の強さを持った人のことを言う。 気分にほだされて夢見ていただけの自分には、それが全く足りなかった・・それだけの話だ。
何せ “彼” など “0” の状態から身を起こして、”世界の頂点” にまで上り詰めたのだから・・。
丁度 その頃の話である。”彼” を主人公とした映画が上映され、その主題歌が注目を浴びた。 彼の名は “北野晶夫”、映画の題名は原作どおり『汚れた英雄』、主題歌英題は「Riding High」であった。
〜 何ということでしょう♪・・ 〜 ではないがw、まぁそのような詰まった気分の時代に、まるで あつらえたかのように「汚れた英雄 / Riding High」は、映画を彩りテレビに流れた。
正直なところ、この映画と歌、続くレースドキュメンタリー「ウイニングラン」+「Call Of The Wild」に、かなり煽られた面も拭えない。 見方を変えれば苦労の最中にも関わらず、ある意味 随分と能天気な精神状態、・・やはり赤面ものに他ならないなw。
ともあれ・・、主題歌を歌ったのは言うまでもなく “ローズマリー・バトラー / Rosemary Butler” 当時 35歳にしてベテランの “バックコーラスシンガー” である。
日本においては初耳に近い人であったが、高校時代からバンドを始め、17歳にして “ローリング・ストーンズ” の前座を経験し、その後も地元のテレビ局イベントなどに積極的に関わり、地歩を築いていったという。 やっぱり結果を残す人には、常に行動が伴っているね・・。
女性ロックバンド “The Ladybirds” や、同じく “Birtha” と関わりながら、リンダ・ロンシュタット、ブルース・スプリングスティーン、ジャクソン・ブラウン、ボズ・スキャッグスなどといった超の付く大御所のバック・コーラスに重用され、次第にそちらの比重を高めてゆく。
下手をすると前面で歌うメインの歌手よりも、基礎的な歌唱力、声質、声量、器量が求められるバック・コーラス。それでいて前面のスポットライトも歓声も今ひとつ当たり難い縁の下の力持ち役・・。
それでも 彼女は自分に与えられた道に喜びを見い出し、誇りを持って精進することで その力量に磨きをかけ、数多のビッグスターにとって なくてはならない存在となってゆく。
2020年現在のお姿(当時74歳 歌声もご健在)
つまり、昭和57年(1982年)日本における「汚れた英雄 / Riding High」は、彼女にとって事実上 初ともいえる “ソロ” による歌唱&マーケティングであり・・、それは35万枚のセールスを記録する大ヒットによって報いられたのだ。
続く「ウイニングラン / Call Of The Wild」、「幻魔大戦 / 光の天使:Children Of The Light」と、その歌唱を遺憾なく発揮出来る歌に恵まれたこともあり(3曲それぞれ別の作曲家だが、イメージは揃っていた)、彼女のソロ・アーティストとしての地位は不動のものとなったと言っても過言ではなかろう・・。
全ての努力が報いられるわけではない。しかし、成功には必ず、臆さぬ行動と弛まない努力が裏付いているものなのだ・・。
帰国後のローズマリー・バトラーは、その後も精力的に活動を続け、チャリティー事業にも熱心である。 (やや記憶が曖昧だが)確か “ゴスペル” の方にも取り組み関わっていたという・・。 2013年には66歳にして自身2枚目のソロアルバム「You Just Watch Me」をもリリースしている。
「Call Of The Wild」とともに懐かしのF1マシンやレーサーを見ることができる。
俳優・草刈正雄 によって演じられた映画『汚れた英雄』の主人公 “北野晶夫”。 彼の風貌・振る舞いに草刈は正に打って付けであったが、2時間足らずの映画に原作の全てを埋め込むことは到底無理がある。 映画そのものの出来は・・そこそこといった感じ。
読む者の胸を焦がし尽くすような情熱と劣情、全てが0に帰すような燃えるカタルシスは、大藪春彦による原作ならではの黒く眩いエネルギーでもある。
しかし、天性の美貌と才能、無頼の心胆と強靭な肉体・精力で、数多の美女、そして頂点に達する輝かしい栄光を欲しいままにし、あまつさえ最後は一瞬にして炎の中に消えてゆく・・。・・な~んてカッコ良すぎる人間は、やはり小説の中にのみ存在する英雄でしかない。
無理架空の存在だからこそ、そこに憧れが生じ、若く悩める者たちに無常のエクスタシーをもたらすのだろう。
本人的にそんな気は無いのだが、先日の模型の記事に続き何か “不幸自慢” の出来損ないのような記事になってしまった。お目汚し誠に申し訳無い。m(__)m
私のように、否、私等より遥かに苦労・苦悩を押して大人への階段を登った人は数多く居よう。そんな人々に、そして今は遥か昔となった遠い日の自分に向かって、この歌を送り本日は締めとしたい。 大した者には何にもなれなかったが、それなりに頑張った。だからこそ今日この日が有るのだから・・。