子供の頃、そう、6〜7歳の頃だったか、刀を持っていた。
もちろん玩具の刀である。正確に憶えていないが全長(柄の端から鞘(さや)先まで50〜60cm)位だったのだろう。 只、特筆?すべきは金属製であったことだ。(当たり前だが刃は付いていない)

金属製といっても刀身そのもの全てが、鉄や亜鉛合金の塊というようなことはなかっただろうし、ブリキ的な軽量金属による成形か何かと思われるが、樹脂製のものとは比べ物にならないほどの重さがあったし、刀身にはちゃんと “樋(ひ・血流しの溝)” も彫られていた。(樋が赤く塗装されていたのが チョイ玩具らしさ?)
刀を鞘に収めるとき、鎺(はばき)が鞘口に当たって「チン」と音を立てるところもテレビで見る時代劇と同じだったし、その音立てたさに集まってくる近所の子供たちもいた。
まこと、就学児童にはもったいない・・というか、些か危険な代物でもある。 まぁ何でもかんでも危ない危ないと、子供に何もやらせない現在の世相も疑問ではあるが、前後未成熟な子供に金属製の刀というのも中々に微妙なところではある・・。(故に危険なものを持つときの心得も育つのではあろうが・・)
有り難いことに その刀で怪我をしたことも、させたこともなかった。一定期間 我が身の宝物として機能した後、「仮面ライダー」が始まる頃には過去のものと化し 忘れ去られた存在となり、後の引っ越しに伴い失われてしまった・・。
遺るのは想い出ばかりである。
まだ子供たちが “時代劇のヒーロー” に憧れを持っていた時代の話・・。
・・が、それよりも、さらに2〜3年前のこと。
つまり、物心つく以前のことであり 私自身には殆ど記憶が無いのだが、親の話として聞くに、とある剣士のことがとても好きだったそうな。 その名は『紫頭巾』・・。
〜 ・・江戸時代の天明期、老中・田沼意次が幕政を主導していたいわゆる田沼時代。市民を困らせる金権政治を展開し、意次は息子の意知と共に悪徳老中親子としてその名は江戸市中に轟いていた。その汚れた世の中を正さんと、秘剣術『修羅八双』を以ってして悪人たちを成敗する正義の味方『紫頭巾』が現れ・・ 〜 Wikipediaより引用転載
要するに “絵に書いたような時代劇ヒーロー” である。
勧善懲悪が単純明確であった時代ゆえの演出である。
永い間 “快傑 紫頭巾” かと思っていたが “快傑” ではなく “怪傑” だそうだ。 なぜ “怪傑” かというと(おそらく)普段は一介の民草として暮らし、いざとなると “神出鬼没” で登場! だからではなかろうか・・。 さらに登場時はその顔を頭巾で隠しているからだろう。

一見、忍者の覆面にも似る顔隠しの頭巾※。3〜4歳の子供に田沼意次云々の話が分かろうはずもない。とにかく “悪い奴ら” を退治に颯爽と現れながらも、その半顔を隠すミステリアスなヒーロー像に私は惹かれていた・・のだと思う。 ※ 宗十郎頭巾 というらしい
親の話では、紫頭巾のごとく風呂敷で頭を包んでやると、喜んで遊びに出かけたそうだ。 同時代に爆発的な人気を博した「月光仮面」と同様の現象と思われる。(玩具サングラスに風呂敷またはバスタオルのマント) 後の時代 “昭和の子供” 的イラストなどで高確率で描かれるアレである・・w。
私の中では “紫頭巾の頭巾” “月光仮面のマント” ともども、極薄っすらと朧気な記憶が息づくのみなのだ。
注:但し “昭和の子供 / 頭巾” の多くは “鞍馬天狗” から来ていると思われる。私的には戦い中も結構 顔出す鞍馬天狗よりも、チョイ影な “紫頭巾” であったのだ。
『紫頭巾』は大正時代、日本の映画草創期の制作者 “寿々喜多 呂九平(すすきた ろくへい)” による創作時代劇であるらしい。 大正12年に「浮世絵師 紫頭巾」として上映され人気を得、その後、昭和に至って続編・新編が重ねられた。
テレビ放送が軌道に乗ると昭和36年、初の連続テレビドラマとして番組が組まれた。内容的には子供向けの色が濃かったようなので、私の記憶の最深部を彩っているのは、この番組またはこの番組の再放送辺りだったのだろう。

昭和47年にも浜畑賢吉氏主演で作品化されているが、恐縮ながら そちらの方は全く記憶に無い。東京12チャンネル制作となっているから、当時の居住地で放送していなかったのかもしれない。
・・が、その2〜3年後に始まった “遠山の金さん” ドラマ「江戸を斬る」の中で、主人公 “金四郎 / 西郷輝彦” の恋人であり後に妻となる “おゆき / 松坂慶子” が “紫頭巾” のフューチャーを演じていたのには驚いた。
別に女性が紫頭巾やるのはダメとは言わないし、松坂慶子もそれなりに役にハマっていたとは思うけど、”金四郎の相方”、”徳川斉昭の落胤”、”隠し目付”、”魚屋の看板娘”、そして “鈴投げ” “謎の隠密剣士” って盛り過ぎだろうよw。
当時は “松坂慶子推し” だったのかもしれないが、あまり “おゆき” に力入れすぎたせいか、”西郷金四郎” の出来の良さの割に “金さんドラマ” の主人公の影が薄くなってしまっている・・。
平成時代の「るろうに剣心」や、2〜3年前のヒットアニメ「鬼滅の刃」のお陰で、現在の子供たちの間にも若干の時代劇への関心が持たれたようだ。 ・・だが、それらの多くは一時的なもので大勢としての時代劇は少しずつ、時の彼方に押しやられていくのだろう
頭巾ひとつで その正体を隠し、華麗な剣技を魅せるヒーローもまた漫画やアニメにその片鱗を残すのみである・・。
子供の頃は喜んでしていた頭巾だが、大人になると鬱陶しい。
この3年間から やむを得ることなく付けざるを得なかった “コロナ頭巾”、この5月から半解禁扱いではあるものの、地方柄、年齢比率柄、仕事柄・・と、中々に取り難い。 子供の時の紫頭巾同様、こちらもさっさと卒業したいのだが・・w。
