Deluxe

振り返ってみるまでもなく、自分の人生 総じて経済的に余裕のある暮らしではなかった。 まぁ世の中 お金に困らず余裕しゃくしゃく左団扇・・という人の方が(かなり)少数派であろうから、私くらいの経済状況は極ありふれた暮らしといえようが・・。

余裕がない、といっても今日明日困る、来週再来月大きな問題を抱えているわけでもなく、普通に暮らせていることを思えば、むしろ感謝すべき状態なのだろう。

余裕がないながらも特に窮することもなく生活できているのは、大半、カミさんの功である。結婚以来 家計は全てカミさん任せであった。日々 切り詰めながらも必要に応じて出費を切廻し、尚且つ些かの蓄えを積み重ねるなど 道楽性分の私にはできない。まこと山の神には感謝である・・。

 

結婚以来・・は多少の山谷あれども何とか安定の状態で今日まできたが、それ以前・・、私が被扶養者の立場であった時代はかなり宜しくない状況であった。

オヤジが不甲斐性であった上に、かなりの悪癖持ちだったので家計は年中火の車状態、学校を卒業してすぐからオヤジの拵えた借金を返して回らなければならないような按配。難儀な話ですな・・。まぁ考えようによっては親子二代で甲斐性無しとも言えようが・・。

そんな赤貧状態の(旧)我が家であっても自家用車はあった。
先日も記事にした “マツダ キャロル” など中古の軽自動車である。まことモータリゼーションの波と力は大したものだと思う。

そして そんな中、キャロルもかなりくたびれて来た頃(元々 数年落ちの中古だしね)新車を買おうという話が持ち上がった。 今にして思えば あの家計状況でアホじゃねーのか?な話だが、景気のいい時代に景気のいい話で舞い上がっていたのかもしれない。オフクロの気苦労が偲ばれる・・。

 

候補に上がったのが『マツダ ファミリア』(2代目ファミリア)であった。(広島住まいでもないのに何故かマツダに縁があるね・・)

・・ま、結局のところ(状況を考えれば明白だが)普通車が買えるわけもなく・・ダイハツの「フェローMAX」に落ち着いたのだが・・w。

落ち着きどころはともかく「ファミリア」のカタログを見ている内は、その美麗な写真に誘われ夢が膨らんでいた。当時の車や家電製品のカタログには、新しい時代への夢と希望がこれでもかというほど盛り込まれていたものだ・・。

ひとつ記憶に残っているのが、そのファミリアのペットネーム? “プレスト” であった。『マツダ ファミリア・プレスト』・・何かカッコイイ!・・ような気もするネーミングである。・・でも “プレスト” って何? “press(圧迫)” とは関係ないだろうし・・。

翻訳で調べると “Presto” イタリア語で “すぐに” という意味だそうだ。要するに “俊足” だとか、今で言う “マツダスピード” みたいな感じなのだろう。 粋ではあるが、当時 理解した人は殆どいなかったと思うぞ・・w。

また、同時期に「グランドファミリア」というグレードもあった。こちらの方は分かり易い、何せ “グランド” である。”壮大な / 豪華なファミリア”・・優越感満載、いかにも日本人好みと言えようか。

2代目ファミリアには “ロータリーエンジン” の設定もあり、ロータリーの未来に賭けるマツダの意気込みが伝わってくるが、その後の展開はご存知のとおり。こういう信念は嫌いでないので、今後のロータリーの復権を祈りたい。

 

結局 買うことになった「フェローMAX」の方にもグレードがあった。下から “スタンダード” “デラックス” “ハイデラックス” “カスタム” である。

家に来たのは “デラックス” であった。 “デラックス / Deluxe”(仏語)、グランドと似て “豪華な” グレードのはずなのだが、何故か下から2番目。最下位の “スタンダード” が大半 商用車需要なのを考えると、実質 最廉価版と言えなくもない。 “デラックス” なのに・・w。 ここら辺も、とりあえず高級志向な日本人感覚に合わせたものだったのだろうか・・。

因みに “カスタム / Custom” は本来 “顧客” の意味であるが、何故か日本では “Customize・カスタマイズ(特注)” の意味が強く用いられ、当時の最上級グレードに その名が使われていた。 まぁ実際には多少のオプション設定とグレードカラーがあるだけだが・・w。

実際のレベルや位置付けはどうあれ、当時の “デラックス” “カスタム” グレード表記には分かり易いものがあった。(チョコレートにもあったくらいだしね) 「あぁ、まぁとりあえずデラックスなのだろう」・・とw。

時代を経るごとに用いられる言葉も移り変わり、車や家電製品のグレード名も更新されていった。 “GT” がグランドツーリングやグランツーリスモから来ていることは誰でも理解できるが、それに類したように “ST” とか “LE−X” などアルファベットの組み合わせが増えて、パッと聞いた感じ上下関係が不明瞭にもなった。

その内、単に高級・超高級といったランク的な意味合いから、より個性としてのネーミングアピールが重視され、”ロイヤルサルーン” だの “メダリスト” だの “ブロアム” だの、象徴的なグレードネームが持て囃されるようになった。

若い頃乗っていた車は “GT−APEX” だったが、そのひとつ下の “GTV” と大して変わらんような気もしたが・・。

フェロー、マイナーチェンジ後はスタンダード設定さえ消えている。

現在は?と見てみれば、また70年代〜80年代に若干戻ったような、さらに簡略化されたような “G” “L” “X” といった一文字系が多く、最早 単なる区分け的な意味合いしか成していないように思える。

ことさら “高級” “ハイパワー” を求める時代でもないということか。今時 “デラックス” などと名付けようものなら、余計に陳腐感・安物感を煽ることになりかねないのかもしれない。 ・・いや、一周回って現代の人には新鮮なのかな・・w?

商品のグレード分けなど 本来無くても構わないものであろう。 “ユーザーサイドに立って” というなら、基本ワングレードの上、オプションで調整すれば良いだけの話である。

わざわざランク分けするというのは、高級に憧れる庶民感情を上手く利用した販売手法と言えなくもない。それで言うなら現代の分け方は、多少なりとも理に適っているようにも見える。

翻って見るなら、一見 無駄とも愚かとも見えなくもない、そういう高級志向も、只々 青い空を見上げ続けていた昭和のエネルギーとも言えるのだが・・。

身の丈に合った生活、特に問題も無き ありきたり普通の暮らしが一番である。代わり映えのない日々こそ宝である。 しかし、それだけに固執してしまうと、今度は何の向上もみない状態へと至ってしまいかねない。 人生とはムツカシイものだ・・。

 

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