昭和の大歌手・・などと呼ぶならば、藤山一郎や美空ひばり、霧島昇、淡谷のり子などが当然の如く挙げられようが、37年生まれの私にとっては列氏ともに その頃 既に大御所の立場であって、もはやテレビの最前面に立つ機会は少なくなっていた。
小柳ルミ子や天地真理らが一世を風靡した後辺りから、登場し人気を呼んだ “花の◯◯トリオ” 山口百恵、桜田淳子、森昌子。中でも山口百恵は7年余りの間に歌手と女優の両職をこなし70年代で最も売れたアーティスト。大歌手に比肩する存在であったろう。
単に職掌に優れていただけでなく、精神的にも揺るぎないものを持っておられたようで、1980年10月ファイナル・コンサートをもって引退された後も、人気商売にありがちな後年復帰もなさず、多くの下馬評を退けることとなった。
しかし、70年代を通して残した遺産は数しれず、後の歌謡界に与えた影響も大きかったせいか、引退後も何かとメディアのネタに用いられることもしばしば。 そして、ついに形となった一枚が、カムバックを擬似的に具現したかのような一曲 『恋愛専科』 “MOMOE” であった。
引退1年後の頃であったというから1981年、昭和56年だったのだろうか。当時 私は勤めていた会社のラジオで初めてこの歌を聴いた。 担当部署からラジオまでは少し距離があった。細かい会話などは聞き取れない。しかし、流れてきた少しダルトーンな歌声はまさしく “百恵” のそれであったのである。
「あれ? 山口百恵? 早いな、もう復帰したのか・・?」
そう思わせるに充分な声質、そして、それっぽい曲の構成だったのだ。
少し経ってから、百恵本人ではなく “MOMOE” とされた覆面歌手による歌唱だと知った。
それなりに歌唱力があることから、売れない歌手さんが百恵の真似で歌ったとか、一般人で百恵の真似歌いで知られた人だとか色々いわれたが、真実は今もって不明。覆面歌手の本分を果たしている。 ・・が、作詞は あの “島田洋七”(漫才コンビ B&B の太い方)作曲は「青春時代」で著名な “森田公一” である。中々ユニークなタッグ・・。
曲自体は悪くなく山口百恵本人のアルバムに入っていても おかしくない仕上がり。歌唱も “百恵 / MOMOE” 独特の精彩を放っており 聴き応えもあるのだが、そこは やはり世間の目をして “色物扱い” だったのか、一過性の枠を超えることは出来なかった・・。
偽物はあくまで偽物ということだろうが、彼女(MOMOE)の資質をもってすれば、もう何曲かリリースされていても面白かったのではないかとも思える。 現在ならばYouTubeなどもあるし、結構、人気が出たのではないだろうか・・。 百恵と似たような歳ならば我らと同年代、今も何処かで百恵の歌に耳を傾けておられるのかもしれない・・。
さても上記の面々とは趣を異にするが、『恋愛専科 MOMOE』の数年後、1986年(昭和61年)一風変わった歌が、また 職場のラジオから流れてきた・・。 演歌? のようでもあるが・・何か少し違う、何せ歌詞が随分とアグレッシブだ・・。 “社販で買った黒のドレス〜♪” って何だ?
『夜霧のハウスマヌカン』 “やや” である。
デビューされたのは1982年、覆面ユニット “ヒマラヤ・ミキ&MODOKEES” として平山三紀の「真夏の出来事」をカバーするところから始められたようだ。 あれ? 趣を異にすると書いたが、こちらも覆面プレイだったのか・・名も “平山三紀モドキ” だし・・。 レコードジャケットは何か別のところで見たような絵だし・・。
当時はこういうパロディカバーのような手法が流行ってたのだろうか・・w。
“ハウスマヌカン” という言葉は当時初耳であった。英語の “ハウス” とフランス語の “マヌカン” をくっつけた和製洋語?で、要するにブティックで働く女性店員さんのことである。 バブルの風も近い中、当時の人気な職業だった。因みに “マヌカン” は “マネキン” でもある・・。 現在では既に “死語” なのだそうだ。
ジョーク・ソングとでもいうのだろうか? 真っ向勝負な歌とはベクトルが異なるが、こちらも曲調は堅実な作り。歌唱の方も声を上手く活かした歌い方で実力のほどが伺える。部分的には藤圭子の「・・夢は夜ひらく」を思わせる流れがシブい。只、歌詞だけが・・何とも言い難い・・w。
まぁ やはりこちらも本道の歌と見なされなかったのか、数年後の “ランバダ” のブームにまつわるまでライトを浴びることは稀だったが、”やや” は歌の他にも出番を得ていたようだ。 時間が前後するので何だが、「夜霧の・・」より2年前に公開された映画『宇宙怪獣ガメラ』に、そこそこ出番の多い役柄で出演を果たしている。
昨年12月にお送りした「女子プロ – 前」の中で少し触れた、 “マッハ文朱” が異星人スーパーガール(3人組)役に扮したとき、その中の一人 マーシャ役を本名 “小島八重子” 名義で担っておられる。 元々は女優志望だったのかな?
その後、大きなヒットイベントには恵まれなかったようだが、歌を中心に精力的に活動を続けておられたようだ・・。
本道・メインストリームから外れるが故に、こういったパロディ的な歌はどうしても泡沫の星になりやすい。 しかし、数え切れぬほどの歌や歌手、その作り手。それらで構成される芸能の世界において、これら一過性の歌や歌い手も、一瞬の煌めきとはいえ紛うなき “輝ける星” なのである
ましてや、その歌唱力や歌そのものの出来が上々ならば、なおさら大事な歌謡史の一幕であろう。 たまにはこうして、マイナーとなってゆく歌に興味を向けてみるのも良いのではないだろうか・・。