映像の幕間のアイドル

「アイドル」 言うまでもなく女性アイドル(多くは歌手・タレント)のことである。 インターネットで “アイドル時代” とか歴史を検索すると、色々出てくるが今ひとつ判然としない。 そもそもアイドルの定義さえ曖昧だからだ。

「ザ・ピーナッツ」もアイドルの走りらしいが、当時の壮年・青少年はそういう認識だったのだろうか? どこか後年からのカテゴリー付けのような気がしないでもない。 当時の若手女優「吉永小百合」は相当な人気で、確かにアイドル的な扱いでもあったろうが、アイドルか?と言われれば・・どうなんだろう・・?

まぁ、当時(昭和30〜40年代) “アイドル” という言葉が、まだ一般的でなかったので、そういう感覚が出来ていなかっただけかもしれないな。

 

「天地真理」「南沙織」の辺りから “アイドル感” が強まってきたように思う。あくまで私の感覚でしかないが・・。 私感といえば 自分は男なので、つい女性アイドルから話が入ってしまったが、当然、男性アイドルも数多い。何番目の御三家だったか「西城秀樹」「野口五郎」「郷ひろみ」などはまさにアイドルだったのだろう。

それで言うなら前任の「橋幸夫」や「舟木一夫」もアイドルだったのか・・?

ともあれ、”アイドル” の歴史を真面目に振り返ると、意外に古そうなことに改めて気付かされる。 言うなれば明治時代の “松井須磨子” や安土桃山時代の “出雲阿国” も当時のアイドルだったのかもしれないな・・。

さりとて、”アイドル時代” の言葉に最もしっくりくるのは、80’年代に星の数ほど登場した女性歌手たちであろう。 面倒くさいのでもう列挙はしないが、要するに「松田聖子」らに代表される “カワイコちゃん” ブームの時代である。
※ “花の◯◯トリオ”「山口百恵」や「キャンディーズ」らの時代をすっ飛ばしているが、他意はない。偶々である。

 

80’年代 のアイドルブームとなると、よく言われたのが “見た目の可愛さばかりで歌唱力が無い” ・・。 もちろん 全員が全員であるわけもなく、中にはしっかり “歌も上手いアイドル” も多数おられたと思うが、・・中には大概な人もいたような・・・。

“カワイコちゃん” たちがブラウン管(当時)の多くを占めだす頃と入れ違いのように、自分はニューミュージック系→海外のロックミュージック系→クラシック系へと、音楽に対する興味が変遷していったので、彼女たちのことはよく分からない・・。

全く憧れの欠片も無かったかというと・・まぁそういうわけでもなく、一応 “高田みづえ”、また 少し後の “原田知世” のファンではあった。(コンサートとかは行ったことがない)

原田知世と同世代の “薬師丸ひろ子” に関しては、その透き通った声・歌唱法に魅せられ、CDは大半入手し現在でも愛聴盤としてストックしている。

テレビ、そしてライブにと花咲かせた彼女たちであったが、当然、その影には実力も美貌も持ち合わせながら、ステージの中央に立てなかった人も山と多かろう(というより大半はそんな人たちであろう・・)

そしてまた、白羽の矢を手に受けて その歌声を世に届けながら、結果的に本人自身にはあまり陽が当たらない、そんな人たちもいた。 映画など映像作品の主題歌を担った隠れたスターでありアイドルたちだ。

とりあえず思いついたといえば失礼だが、私の記憶に残る方たちを記しておきたい・・。

 

後藤恭子(現・藤本恭子)

昭和61年公開、安彦良和制作のアニメーション映画『アリオン』のイメージガールとして優勝を果たし、主題歌「ペガサスの少女」を歌った。 「アリオン」に登場する清楚なヒロイン “レスフィーナ” そのままに清純な歌声を披露した。

当時の歌唱力そのものは、アイドルとしては通常レベルであったように思うが、その声・発声は 可憐でありながら儚さ脆さを感じさせる “少女” のそれであり、物語の最後に重要な役割を果たす “レスフィーナ” のイメージを見事に体現していた。

「ペガサスの少女」と彼女の歌声は 映画作品の纏まりと演出に十全に寄与したが、その後も含めて、歌手としての姿を知る者は限られた者たちだけである・・。アイドルとして花咲いたとは言い難い状況であったろう。

その後 歌手としての仕事は縮小されながらも、女優・モデルとして活路を見出しドラマやCMに出演、活動を続けている。

 

柿沢美貴

上のアリオンと同じ頃、隆盛を極めていたOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)の一作『戦え!!イクサー1』の主題歌をPART1・PART3で努めた。渡辺宙明のアップテンポな曲調に怖じることなく、完璧に近い形で歌い上げ その歌唱力は当時のアニメファンの誰もが知るところである。

その後もゲームなどのイメージソングなどを担当したが、表に立つ存在とはなり得なかった。 徐々に仕事の中心を声優業にシフトしていき、現在はメディアクリエイト関連の会社を持ち、ナレーターや司会の活動を続けているようだ。

動画は『戦え!!イクサー1』におけるスタジオ収録時の模様、貴重な映像であるとともに彼女の歌唱力が伝わってこよう。

 

井上あずみ

宮崎駿 監督による『天空の城ラピュタ』は超の付く大ヒット作であり、その主題歌「君をのせて」は子どもやアニメファンならずとも、耳にした人も多いアニメソングであろう。

ここまで来ると最早、論ずる要もなし第一級の歌唱力、澄んだ声質と伸びのある歌声で『天空の城ラピュタ』を “完成” に導いていた。彼女の歌があってはじめてラピュタは終幕という予定調和を成し遂げたのだ。

ラピュタや宮崎作品の多くのみならず、多数のイメージソングやテーマ曲を担当し、アニメファンや一部の層からは熱烈なファンを持つ彼女だが、社会一般的な視点から見れば決して陽の当たる道を歩いてきたとは言い難い。 彼女もまた作品を支え作品の影に隠れてきた一人といえるのではないだろうか・・。

 

思い出に残る 女性歌手を三人述べたが、ここで一人男性歌手も・・。

十田敬三

昭和の、少なくとも40年代には歌手として活動を始めていたであろうと思われる。ネット上では僅かながら当時と思しきシングルレコード盤なども確認できる。

しかし、40年代を少年として生きた者として最も彼を知る作品は『デビルマン』であることに疑いはなかろう。 デビルマンの主人公・不動明の声を当てた “田中亮一” とは異なるが、その主人公を彷彿とさせながら、テレビ版デビルマンのヒーロー感を見事に歌ってみせた。



オープニング「デビルマンの歌」エンディング「今日も何処かでデビルマン」共々、主人公の熱血と悲哀の二面を完璧に歌い上げ、それは今日、大人・初老となった私たち当時の少年の心に忘れられぬメロディーとなっている・・。

しかし、こんな彼でさえ、幾ばくかのイメージソング、そして多数のCM曲を世に残した後、今はその消息さえ定かでない・・。

 

彼ら・彼女たちは映像作品を完成させることが使命である。決して作品より前に出てはならないのであろう。

しかし、これだけの仕事を世に残しながら、光の当たらなさには寂しさと無常を禁じえない。 彼ら・彼女たちがいてはじめて物語は輝いていたのだ。

映像の幕間にのみ求められる歌の職人たち。 万人の観客が席を埋める巨大なステージには縁の薄かった彼らかもしれないが、せめて その歌声をいつまでも忘れず聞き続けることが報いとなるのだろうか・・。

 

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