恐るべし恐るべし

昭和49年(1974年)・・。 いやさ、実際 ヒットを飛ばしたのは再放送時だから、その2〜3年後か? 後に来る “アニメブーム” の呼び水となり、一般社会のアニメに対する再認識を導いた作品「宇宙戦艦ヤマト」。

内容的には旧来からの日本的ヒロイズムを主軸としながらも、戦いと そこに息づく人間ドラマの描写。奇想天外なSF的アイデア、そして全話を通してひとつの壮大な物語とするプロットなど、革新的な造りの作品でアニメ史に残る金字塔となった。

子どものみならず、大人の注目さえ引いて世間の耳目を集め、大きな興行的成功も手にした「ヤマト」であったが、同時に この頃から作品そのものだけでなく、声を充てる “声優” さんや、主題歌を担当する “アニメ歌手” にも光が当たりはじめたのである。

 

主題歌「宇宙戦艦ヤマト」もさることながら、バラードなエンディングテーマ「真赤なスカーフ」の熱唱で、今もってリサイタルなどでのリクエストの絶えない、歌手 “ささきいさお” 氏。

彼は その後、活躍の場を順調に広げていき、やがて 水木一郎、堀江美都子、大杉久美子らとともに「アニメソング四天王」などと称されるまでに至ったが・・、とある番組の1コーナーで “こういった声優やアニメ歌手に日が当たるのが遅すぎた” 旨 こぼしていらしたのを憶えている。

歌手であり俳優でもあった彼もまた、”和製プレスリー” として銀幕に押し出されながらも、時代に翻弄され長く不遇をかこってきたゆえの言葉であったのだろう。

そんな彼が 昭和44年(1969年)に主演を張って放送されていたのが、”タケダアワー”『妖術武芸帳』である。

 

~ そも妖術とは 心の技 深く沈むれば 万人その掌中にあり 無にせんか 天をよみ 風をかぎ 地の昔を聞く 森羅万象 己が意のまま げに 恐るべし 恐るべし・・ ~

一聴、聞き取り難いほど沈鬱なつぶやきで始まる語りは、名脇役で知られた “玉生司朗(たまき しろう)” 氏によるもの。 異国より来たりて日本征服を狙う “妖術軍団” の奇怪さを見事に表わしている。

ささきいさお 演じる総髪の剣士 “鬼堂誠之介(きどうまことのすけ)” は、豪僧 “覚禅(かくぜん)” らとともに、妖術師 毘沙道人(びしゃどうじん)とその配下に立ち向かう。

覚禅 演じる “藤岡重慶” は、これまた生粋の悪役から滋味深い善人までをこなす多才な方で、「あしたのジョー」”丹下段平” の声をも充てておられたマルチプレイヤーでもある。

誠之介を頼む “香火主(こうたき)” に、メディアにおける水戸黄門の端緒となった名優 “月形龍之介” を起用するなど、制作に対する力の入れようにも並々ならぬものがあった。

 

「仮面の忍者 赤影」に続く特撮時代劇であり、設定・脚本とも力の入った作品で、今見ても結構楽しめるドラマなのだが・・、当初予定の半分、1クール(13話)で終了の憂き目となってしまった。13.7% という平均視聴率が “タケダアワー” の意に沿わなかったようだ。

今どき平均13%台後半の視聴率といえば大ヒットと言っても良い番組だと思うが、テレビが時代の寵児であった昭和40年代においては、帳尻の合わない数字だったのかもしれない。(当時の「ウルトラマン」が平均視聴率36.7%、前番組の「怪奇大作戦」で平均視聴率は22.0%) *ここから見ても “テレビっ子” と呼ばれた、当時の子供たちの視聴率とその影響が知れようというもの・・。

怪奇特撮ものとはいえ、かなり本格時代劇な仕立てとしたがゆえに、単純明快な「赤影」に比べ子供向けとしては少々難しい筋立てとなったこと、正統派剣士のキャラクターであった誠之介には、子供が真似したがるような派手な必殺技が無かったなどが要因でもあったか・・。

 

そもそもはロカビリー歌手としてデビュー、整った顔立ちから「和製プレスリー」の触れ込みで多くの映画にも出演を果たしてきた ささきいさお が、子供向けとはいえ主演を任され、撮影地である京都に移住してまで取り組んだ作品が、僅か半年余りで終幕してしまった。

映画興行の衰勢によって俳優業の減少に悩まされていたところに、この幕切れは ささき にとって痛いものであったに違いない・・。

しかし、彼は諦めなかった。 仕事に事欠く中にも歌唱や演技の基礎を一から学び直すことを続けていたのである。 プレスリーなどと呼ばれながらも、十人並みといわれた初期の歌唱力は、その声質と男らしい歌いまわしでメキメキと向上し、やがて「科学忍者隊ガッチャマン」の主題歌歌手という仕事に結びついた。のみならず、副主人公とでもいうべき “コンドルのジョー” の声を担当することにもなった。

以降、「ゲッターロボ」「新造人間キャシャーン」「銀河鉄道999」など数え切れないほどのアニメをはじめとする番組の主題歌、声優、そして俳優業とメディア業界に欠かせない人物となっている。 アニメソングのイメージが強いので、そちらの方面が強調されがちだが、あらゆる仕事に真摯に取り組む仕事人でもあり続けているのだ。

意欲をもって制作され取り組んだ『妖術武芸帳』は日の目を見ぬままに潰えた。
大ヒット作となり現在も語り継がれる『仮面の忍者 赤影』の主人公であり、『妖術武芸帳』にも起用が検討されていた “坂口祐三郎” は、その後の努力が成果に結びつかず苦労な半生を送った。

人の人生を左右するものが、タイミングなのか、人のつながりなのか、それとも資金や世渡りなのか、それは分からない・・。 それでも、それらを好転させるべく日々の精進は欠かせないものなのであろう。

しかし、更になお 人智を超えた、時の運命とでもいえるものが存在するのも また事実である。 良くも悪くも人は翻弄の波を掻き分けながら生きている。げに 恐るべし 恐るべし・・。

画像 © 日本コロンビア

 

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