タチビな車 vol.08 そこが地力とでもいうか

必ず・・というわけではないが、ほぼ大半のテレビCMには随伴曲(BGM)というものが流れている。 テレビCMを切っ掛けに名の知れた曲や歌手も少なからず存在する。 ケースバイケースとも言えようが、CMミュージック・テーマソングなどに採用してもらえることは歌手側にとってもプラスとなり得るのだ・・。

山口百恵や松田聖子、そして山下達郎や竹内まりやなど、昭和から現在に至るまで幾度となく、CMミュージックに取り上げられる有名どころもさることながら、それなりに活動を積み重ねていても、一般への認知が今一つな人がCMをして知られることもある。

私の想い出でいうならば “セイコー・ALBA” のCMで知ったブラス・ロックバンド “スペクトラム(SPECTRUM)”「夜明け / アルバ」であろうか・・。

 

ところで、こちらのお方をご存知の方はどれくらい居られるだろうか?
結構 有名な方らしいのだが、認識不足、恐縮ながら そのお名前以外、今回調べてみるまで詳しく存じ上げなかった。

画像:頭脳警察 公式HP

名は “PANTA”(パンタ・本名:中村治雄)日本のロック歌手であり、荻野目洋子やチェッカーズにも関わった作詞・作曲家でもあるそうだ。 当然ながらJ-ROCKファンにはつとに知られた存在であろう・・。

で、この方が1982年にBGMを充てられたCMがコチラ・・

曲名も宜しく「レーザー・ショック」、 トヨタの新世代エンジン “LASRE / レーザー”(語呂合わせ・”LASER” ではない)に合致したからか、トヨタ-広告代理店の依頼で作曲したのかは分からないが、ロックというよりは、80年代感満載・アップテンポなポップス曲である。

LASREはともかく、特徴的な歌だったので周囲に言ったら「チョッと抜けたような声」と言われた・・。しかし 私の耳にはその後も残り続けたのである。

 

・・で、今回 “タチビな車” を飾るのが 同CMで登場の「トヨタ・ビスタ」初代。
実質的に「2代目 カムリ」の姉妹車ながら、トヨタにとっては色々と含みを持たせたニューブランドでもあった・・。

画像は5ドアリフトバック

以前 どこかで触れたと思うが、”トヨタ” の車種から “タチビな車” をピックアップするのは難しい・・。 何せ “どの車も大きくハズさない” からである。創業初期より 品質はもとより企画そのものも入念に練り込まれていて、巧みな中庸とお買い得感を生み出し “堅実な” ブランドを構築してきた。

特にこだわりがないなら “トヨタ” 買っときゃ間違いない・・を昭和を賭けて築き上げてきたのである。

それが「ビスタ」の頃から大きく舵取りを変えてきた。
“堅実な車作り” に加えて “魅力ある訴求力” を追求し始めたのだ。

先発した店名 “トヨタビスタ” と名を同じくした「ビスタ」は、”展望” という その意味由来のごとく、新時代に賭けるトヨタの意気込みを表した尖兵だったのかもしれない。

 

只、初代「ビスタ」がその役割を十全に果たしたかというと微妙なところでもあった。

4年の販売期間で売り上げ10万6000台というのは 決して失敗作とはいえないが、トヨタとしては満足に足るものではなかったろう。同時期に発売され あまり人気がなかったといわれる3代目(A60型)セリカでさえ15万台である。(但しセリカは以降も売り上げを落としている)

“タチビな車” に求められる要件、”さして悪い所が無い、むしろ良い車だったのに何故か今ひとつな売り上げだった車” ・・。

新世代エンジン “LASRE”(軽量・高効率)を搭載し、経済性・環境対応を推し進め、加えてFF(前輪駆動)+横置きレイアウトとしたことから広大なキャビン容量を確保した「ビスタ」。 言ってみれば車が憧れであった時が終わり、合理性がより求められる時代への試金石でもあったわけだ。

 

しかし、トップバッターの悲運とでもいうべきか、時代的にまだその意義が理解されていなかった。 環境問題についても人々の脳裏に今ほどナーバスでなかった・・。

トヨタがニューカマーを出してきた。2リッタークラスのセダン。FFレイアウト。
・・FF !?、中型(イメージ的には割と大型)セダンなのにFF !?・・。

車の世界においてスポーツカーや大型セダンは FRであるべき・・という感覚があり、それは現在も一部では信奉されている。(私もどちらかというとそうだ・・)

当時はその印象が一般にまだまだ強かった。その合理性より大型セダン=FRの図式が優勢であったのだ。 70年代後半から各社推し進めてきたFF化の技術がまだ未成熟で、”アンダーステア” や “タックイン” など、FFの挙動に対する不信感も作用していたかもしれない。

 

さらに「ビスタ」はその内装も割と簡素であった。 貧弱というわけではなく新開発の空調システムを取り入れるなど装備も奢っていたのだが、総じてヨーロッパ車のような淡白な仕上がりで、さらに広い室内が災いしたか 物足りなさを与えてしまったのだろう。

外観は6ライトの明るくオーソドックスなセダンであったが、後に5ドアのリフトバックを追加された。 私などは「カローラ・リフトバック」なども含めて、単なるセダンよりもこういったヨーロッパ調のスタイルの方が割と好みなのだが、一般的にはもひとつ受けが悪い。

いよいよもって「ビスタ」の何たるかが世間には不明確、高級車でも無ければ小型実用車でもない、アピールポイントがどこにあるのか分からない車になっていってしまったのだろう・・。 “タチビな車” の面目躍如たるところである・・。

結果的に失敗とはいえないが成功とも言いにくい、微妙な車となってしまったが・・、ここからが、さすが “トヨタ” である。

もしかしたら、この結果は最初から織り込み済みとさえ思えるような、その後の展開と躍進を積み重ねていった。 かつて “堅実” な車ばかりをリリースしてきた社風に、新時代への対応性をいち早く築き上げ、尚かつ “人を惹き付ける” ブランディングを構築していったのだから・・

「ビスタ」の元となった「カムリ」はセリカの名を借りていくらか売れた時代をバッサリ捨てて、中堅セダンの地歩を積み重ね今に続いている。

「ビスタ」本体は現在は失われたものの、2代目では合理性から一転 “ミニクレスタ” の立ち位置を創出して35万台を売り上げた。

成功も失敗も即座に吸収して次の展開につなげ、より大きな成功を目指す。 いかなる会社も標榜するところであろうが、トヨタはこうしたことへの対応・応用が徹底しているように思える。 今日のトップメーカーたる栄華の土台であり地力なのであろう。

だからこそ、・・少し優等生過ぎるトヨタからは “タチビな車” を見つけにくい。チョイ斜め上を愛する私としては、食指が動きにくいというのも また事実なのだ・・。

 

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