フランスの南部、カンタル県という風光明媚な場所。山岳と峡谷がうねりながら広がる一角に、屈指とはいえないまでも かなり大型の鉄道用鉄橋が架けられている。
1888年 当時の技術を結集して完工に至ったその橋は、全長564.85m、橋脚最高80m、巨大な単一アーチによって支えられ、眼下を流れるトリュイエール川 水面からの高さは100mもあるのだそうだ。 19世紀、今から130年以上も前、このような難所にこれだけの建築物が築かれていたことに驚く・・。
橋の名は「ガラビ高架橋(Le Viaduc de Garabit)」
“この橋に極めて似たヨーロッパの列車橋” で1976年の秋、大規模な崩落事故が発生。 また通常 通過しないはずの長距離列車が、たまたま通りかかったことで 大半の車両が100m下の川や橋脚部分に転落、乗客全員の命が失われるという大惨事が発生した。 場所はフランスではなくポーランドの一角とされる。生存者は無し・・の筈・・。
有り難いことに これらは実際に起こった事故・事件ではない。
1976年12月に公開された映画『カサンドラ・クロス』の一場面である。
モデルとされた “ガラビ高架橋” は、映画の中で “カサンドラ・クロス橋梁” として撮影にも使われている。(爆破シーン以降はミニチュアセット)
1972年の「ポセイドン・アドベンチャー」1974年の「タワーリング・インフェルノ」など、軒並み “パニック映画” が話題となり破格の興行収入を記録した後、そろそろブームも佳境を越したかという頃だったか・・、イタリア・イギリス・西ドイツ・フランス・アメリカ合作という、誠に国際色豊かな制作映画であった。
ある意味 この手の映画には異色とも思えた “ソフィア・ローレン” 、ちょっと神経質そうで役にハマっていた “リチャード・ハリス” 、そして冷徹と良心の狭間で苦悩するマッケンジー大佐を見事に演じた “バート・ランカスター” など、堂々たる著名俳優が名を連ねている。
内容・あらすじ については全部書くのが面倒なので “コチラ Wikipedia” などを参照して頂きたい。
パニック映画としては やや冗長ながらも先ずまずの出来であり、ヨーロッパ諸国合作によるヨーロッパ舞台の映画という、ハリウッド映画とは一枚も二枚も異なるフォギーな絵面と展開が楽しめるので、一応オススメの作品である。(但しラストシーンもフォギーな終わり方でアメリカ映画のような、わかりやすいカタルシスは無い・・)
この映画を思う時、今も忘れられないのが作品そのものよりも、これを初めて伝えてくれたラジオ番組、浜村淳による作品紹介であろうか。 (関西圏限定となるが)確かMBS「ありがとう浜村淳です」の 一コーナーであったように記憶している。
自ら一生涯の関わりと為す “映画” に関しては、評論家であり劇場運営者でもある浜村淳。 若い頃からの司会や脚本業務で鍛え上げられた「浜村節」は、関西パーソナリティ界において知らぬ者なき伝説級の語り口・口上である。
映画本編を見るより面白いとまで言われた氏の映画紹介、その中で特に私の心に残っていたのが この「カサンドラ・クロス」であったのだ。
そして もうひとつ、氏の語る「カサンドラ・クロス」の終盤、クロスフェードして流れてきた曲が、この映画のメインテーマ「The Cassandra Crossing」。 「猿の惑星」や「パピヨン」、後に「ランボー」「エイリアン」の劇伴に携わった “ジェリー・ゴールドスミス” の手により作曲された。
日本での曲名は「カサンドラ・クロス 〜愛のテーマ〜」と名付けられた・・・当時は割と何でも「◯◯◯ 愛のテーマ」が付けられていたが、この曲に関しては誠、愛のテーマというに相応しく、また、ヨーロッパの叙情を想い起こさせる、ベルベットブルーなメロディーに満ちていて、今でもお気に入りの一曲である。
時が経ち、ヨーロッパに抱くイメージさえ薄れつつある現代、少しベタかも知れないが、ふわっと薄霧に彩られたようなサウンドトラックとともに、一種時代遅れのサスペンス映画に、うつつを抜かしてみるのも良いかもしれない・・。