隠遁

“白神源壱郎” という名で、あぁあの映画か、あの登場人物か とすぐに思い出される方は どれくらい居られるだろうか。

白神源壱郎、1989年(平成元年)公開の映画「ゴジラvsビオランテ」に登場する孤高の生物科学者である。  “Seesaa wiki” というサイトに案内文が載っていたので、それをお借りして記述してみよう。

” 生物工学の世界的な権威。
遺伝子操作による風当たりが強い日本を離れ、セルジア共和国で研究をしていた。
砂漠でも枯れない植物の研究をし、ゴジラ細胞の持つ再生能力を利用しようとしていたが、ゴジラ細胞を狙う組織のテロによって娘・英理加を失う。  娘が亡くなった後、ゴジラ細胞から手を引き、日本の箱根で隠遁生活を送る。” (Seesaa wiki)

ゴジラ映画には その原子力・放射能というプロット故か、”悲運、孤高の科学者” がストーリーの核となることが多いが、この白神源壱郎も そんな運命の十字架を背負った科学者として描かれていた。

そして、この白神源壱郎を演じておられたのが、俳優「高橋幸治」である。

 

1960年代にデビューされ 多くの映画で活躍された後、NHK大河ドラマ 第3作「太閤記」(1964年)で織田信長役を演じ大きな反響を呼んだ。

この「太閤記」においては緒形拳や石坂浩二など、当時の新人を多数起用して成功した。高橋幸治もそのような一人である。以後、この三人は映画・ドラマの妙手として活躍され、4年後の「天と地と」では石坂浩二が上杉謙信、高橋幸治が武田信玄役を務め、13年後の「黄金の日々」では、再現を図るかのように緒形拳が豊臣秀吉役、高橋幸治が織田信長役に就いている。

言葉少なながら重みを感じる声、広い額と落ち窪んだ眼窩、やや痩けた頬と、神経質で苛烈な性格といわれる織田信長のイメージを見事に体現しており、以降、信長を演じる俳優第一人者のような扱いとなった。

 

その寡黙で鋭敏なイメージから個性派俳優のひとりともいえ、畢竟 落ち着いた知的な役どころが多く、上記の白神源壱郎役も そんな彼のキャラクターを見込まれての抜擢だと思われるが、それは見事に功を奏したようで、ゴジラ映画の中に絶妙な抑揚をもたらした。

不可欠ともいえる “非業の科学者” は、初代「ゴジラ」のキーパーソンでもある薬物化学者、”芹沢大助” を演じた “平田昭彦” が あまりにも有名だが、「ゴジラvsビオランテ」での高橋幸治 起用は、それに比肩するベストキャスティングであることに間違いはない。

様々な出演作の中では「丹下左膳」も出色の役柄であり、大河内傳次郎、丹波哲郎らに次ぐ、アクの強い左膳の個性を見事に表出して見せた。

 

昭和テロップの記事を書くにあたって、自分の記憶や印象だけでなく、それなりに調べるのだが、近年の情報・・というか消息がほとんど掴めない人が時折ある。残念ながら高橋幸治もそのようなお一人といえよう。

2001年のドラマ・舞台の出演以降、2005年の地方行政広報誌におけるインタビュー(PDF)を最後に公に姿を見せず、現在のご年齢を考えると、その当時を期に引退されたといって差し支えない状態であり、その後の消息は詳らかになっていない。

これまでの役者としての足跡、誰にも真似することの出来ない深みと滋味に溢れた演技力など、氏が積み上げられた存在感を考えると、惜しみて余りある実情である。

一説には芸能界を退いた後、田舎で慎ましやかに自適な生活を送っておられるという噂もあるが真偽は不明・・。 現役時代から自らの家族やプライベートな事柄は一切明らかにせず、ある意味そのキャラクターのごとく “孤高” をまとっておられた生き様故に、引退後の隠遁生活という噂も、そういったイメージから出たものなのだろうか・・。

氏の演じられる姿を もう見られないのは残念だが、氏が残された信長像や孤高の博士像は私たちの心に深く焼き付いて消えることはない。

彼にしてみれば、それだけで充分・・、否、それさえも自らの記録の一ページに過ぎないのかもしれない・・。

 

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