鬼は地道だった

いつの間にかテレビで放送されなくなっていた・・。
そんなスポーツ番組のひとつが「キックボクシング」だ。

昭和40年代、彗星のごとくメディア業界に現れ、多少マンネリ気味だった “プロレス中継” のお株を奪うかのように世間の注目を集めた。

当時、人気の高さはともかく 大なり小なり “興行・演出” の感が囁かれていた “プロレス” に対して、”ボクシング” の方は同じ興行であっても “真剣な拳闘技” と見られていた。
そのボクシングに “キック” が付いたのである。そりゃもう究極かと・・。

 

見れば、恐ろしく危険な格闘技のように思える。側頭部を狙って繰り出される “ハイキック” 、そして “後ろ回し蹴り” は、●す気で掛かっているようにさえ見えた。 “肘打ち” フリーの試合も多かったからなおさらだ。 「キックボクシング」は瞬く間にスポーツ番組の花形となったのだ。

そんな中、「キックボクシング」を象徴するかのように連戦連勝のスター選手が脚光を浴びた。 ”沢村忠” その人である。

ただでさえ、危険な技の応酬となるこの競技において、沢村は必殺技を花開かせた。 相手選手の殆ど正面、近距離から駆け寄りジャンプ! 同時に顎めがけて炸裂する “膝蹴り” は尚の事●人的な破壊力であり、「あんなもん、マトモに食らったら本当に●んでしまう!」ような気迫に満ちていた。 メディアは それを「真空飛び膝蹴り」と名付けて連戦叫んでいた。

 

ブームにも近い勢いで広まり、ブラウン管内外の観客を熱狂させた「キックボクシング」は子供たちにも人気となって、”梶原一騎” 作の漫画となり ついにはテレビアニメにまでなった。 題名は「キックの鬼」キックボクシングの拳闘とともに沢村の半生を描いた作品であった。 つまり、キックボクシング=沢村忠の形である。

今さらだが「キックの鬼」の主題歌を歌っていたのは沢村忠ご本人、歌手並みとは言わないが、中々 そつなく歌い上げており声も悪くない。 アニメ版「キックの鬼」は視聴率が30%に至るヒット作となった。

昭和48年には 当時の国民的スポーツ “プロ野球” の “王貞治” を抑え、”日本プロスポーツ大賞” を受賞するに至った。 この頃が沢村の、そしてキックボクシングの絶頂期であったのだろう・・。

昭和51年7月に最終となる試合を行い沢村は休業状態となった。
興行 後半期を支えていた “富山勝治” が頑張っていたが(特に大胆な後ろ回し蹴りが秀逸)キックボクシングの人気は下降しており、翌52年10月沢村忠は引退、テレビからキックボクシング中継は姿を消してゆく。

 

子供の頃は「キックボクシング」という、古来から確立された伝統的な競技があるのだと思っていた。 しかし、キックボクシングは昭和39年代に日本のプロモーター野口修によって、ムエタイと空手を融合、創始された新興格闘技であり、同時に “興行スポーツ” でもあったのだ。

近代ボクシングとなってからも300年の歴史を持ち、世界的公式競技となっている「ボクシング」とは、また違った生い立ちを持っている。

人気の凋落とともに分裂状態となったキックボクシング界は、その後 離合集散を繰り返し、その途上「K-1」などを生み出しながら、現在ではまた基本に立ち返った実競技・リアルスポーツとしての面が押し出されているようだ。

 

気さくな性分ながら地道一徹ともいえた “沢村忠” さん、引退後はプロスポーツの世界から一切手を引き、自動車整備士の資格を取得すると都内で車整備販売の工場を営んでおられたそうだ。 手放されたが、現役時代の愛車シボレー・コルベットに見るように車が好きだったのだろう。

また 横須賀の道場で子供たちにキックボクシングを指導してもいたらしく、元々の空手の精神と拳闘技への愛情をも維持しておられたようだ。 一方、言葉数は少なく温和で酒も飲まなかった。趣味で水彩画を嗜んでいたともいう。

昨年2021年3月26日、かねてより治療中だった癌がもとで、千葉県の病院で亡くなられた。享年78歳。 生前、座右の銘は「一意専心」 お人柄を忍ばせる言葉である。

 

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2件のコメント

  1. 沢村さんとは1度、富山さんとは2度お会いしています。キックが好きなので両者外せません。富山さんも体型も変わらずさすがです。

    1. 宮本博史さん、こんばんは、コメント有難うございます。 直接お会いになったとは凄いですね、ブラウン管の向こうにしか見ていないので羨ましいです。 極端に言えば沢村さん・富山さんお二人でキックボクシングを背負っていたようなところもあり、両者外せないというお言葉はごもっともです。 もう少し人材が広く育てばキックボクシングの歴史も変わっていたのかもしれませんね。

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