「中国は広島生まれ!」
中華人民共和国とは言ってない、中国地方の広島のことアルヨ! ジョークな語り口と卓越した手際で一世を風靡した “ゼンジー北京” 師匠。呉市のご出身だそうだ。
マジシャンにしてタレントさん、それまでインチキ外国語といえば “藤村有弘” 氏であったが、師匠が駆使するのは “言葉” ではなく “喋り方”、つまり日本語を話そうとする外国人の風采をネタにしたものであった。いわば “インチキ外国人” のようなものである。
英語圏の人が日本語を話そうとしたときに「〜デース」とか「アリマセ〜ン」とか、独特の語尾になるように、中華圏の人の日本語ニュアンスを上手く再現している。 どちらも母国語のイントネーションに影響されるがゆえなのであろうが、主にコメディアンのネタとして使われることが多いのはご承知の通り。
随分前のことだったと思うが、留学で訪日して日本語も堪能な女性が「アルヨとか言わないヨ~」と仰っているのを聞いて・・、まぁ確かに演芸というのは物事をデフォルメするものだからな~・・とか思ったが・・、神戸中華街の店員さんは、ほぼゼンジー師匠の喋り方に近いものだった・・。(それとも、あれはわざと中国人風を装っていたのだろうかw)
師匠が、あの喋り方を生かした芸風を編み出したのは、元々がかなりのアガリ症で、普通にやると舞台でアガってしまいマジックも失敗してしまうからだったらしい。
インチキ・イントネーションを用いて舞台上の自分を別の人格に落とし込み、恥をかいたところで それは赤の他人!・・と思い込むことでアガリ症を克服したそうで、それは問題の解決のみならず、一生を通じての持ちネタになってしまった。
考えてみれば、使いようによっては割と有効な方策かもしれない。人前や、仕事の大切な場面でアガって失敗してしまい、余計な恥をかいてしまうというのは よくあることだが、結局の所、”恥をかく自分” を想像しすぎて無駄に緊張するのが主な原因なのだから、いっそのこと喋っているのは他人と考えれば多少でも和らぐのではないか・・(インチキ・イントネーションで喋るわけにもいかないが・・w)
如何にインチキ・イントネーションが ウケた芸風だからといって、それだけで食っていけるほど人生は楽ではない。 師匠が師匠たる所以は、本業たるマジックでも高難度の技を駆使できる器量を持っていたからに他ならない。
マジックも年々ハイレベル化が進み、昭和時代とは隔世の感がある。 平成以降、どれだけ考えても、スロー再生で見ても、全く “タネも仕掛けもワカリマセン” なマジックの目白押し・・ 最近ではもう考えるのも無駄に思えて「ハァ〜・・」と感心しながら見ているだけである。
さすがの師匠も近年のミラクル級の技には及ばないかもしれないが、押さえるところはキッチリ押さえてバチッと締めてくれる。 そこに来るまでの “安易” “いい加減” なマジックは、客を笑わすための “アンチ・イリュージョン” とも呼べる芸なのだが、それはマジックの本質を逸脱したものではない。
どれほど高難度のものでも客が楽しめなければ それだけのもの・・。マジックは魔法ではなく “お客さんを楽しませる一芸” である。 だからこそゼンジー師匠は師匠として揺るがない地位を保ち “一流のマジシャン” として今なお輝いているのだ。
師匠がその芸の途中で時折用いるセリフ
「お客サン、マジック始めるイったらトタンに目の色変える。ソーいうのヨクナイ」
「ハイハイ、やってるところシンケンに見るのヨクナイ」
もう、ゼンジー北京の真骨頂なのだが・・実際、マジックを見る時の本質なのかもしれないな・・w。