中学生くらいの時だったか、日曜日なので街中に遊びに出掛けようとしていると、オフクロから使いを頼まれた。 “桃の花” を買ってきてほしいと言う。
“桃の花” ? 桃の花って何だ? 花を買ってくるの? と聞くと手に塗るクリームだと言う。
化粧品のようなものか・・ 請け負って街に出て遊び、手頃な化粧品店を見つけて入ると “桃の花” を尋ねた。
© 『ももの花ハンドクリーム』 オリヂナル株式会社
出てきた20歳くらいの姐さんは首を傾げている。 ありゃ?どうしたことだ?化粧品屋に無いのか? 困っていると奥から出てきた少し年配の人が・・
「あぁ、『ももの花』ね、あれはウチでは扱っていませんね。薬屋さんで売ってるんじゃないかな・・」
あれま!そうなのか!? 女性でお使いの方なら常識的なことでも、そこから少し立場を変えると途端に分からなくなる。化粧品と薬用クリームの棲み分けさえ定かでないのだ。
自分に直接関係がない、興味がないとなると人は急激にそれに対する認識が甘くなる。もしくは ほとんど欠落する。 まぁこの世にある全てのことに認識を保つのは不可能でしかないが、出来るだけ色々な物事に興味を持ち続けていたいものだ・・。 そういう姿勢が老化防止の一助になるかもしれないし・・。
そういえば、子供の頃から よく耳にしていたものの、何の効能があるのか全く知らないままの薬?が色々あったな・・と思う。(「ももの花」に関しては名前さえ知らなかったが・・)
ということで、今回、昭和時代に定番で世に知られながら、私自身よく分かっていなかった薬用品を取り上げてみたいと思う。 まぁ物知らずの私が基準なので「ハァ?そんなんも知らんの?」と言われそうなのも有るかと思うが・・。
『樋屋奇応丸』 © 樋屋製薬株式会社 『宇津救命丸』 © 宇津救命丸株式会社
幼児の頃 飲まされていたようで、薄っすらと記憶がある。小児が飲めるようかなり小粒な錠剤。 どちらの会社も江戸時代もしくはそれ以前の創業だそう。
“赤ちゃんから小児までの食欲不振、夜なき、神経質(イライラ)等に効果的です。 また日々の疲れやストレス等で、お悩みがちのママ・パパの胃腸虚弱・食欲不振を和らげる効果もあります。 江戸時代から、弱った臓器の働きを高める「五疳薬(ごかんやく)」として服用され続けたひや・きおーがん。 5種の生薬原料を配合して作られています。” (樋屋奇応丸 公式サイトより)
・・だそうだ。精神安定剤+神経性胃腸薬といった感じか・・。生薬のようだ。
大人も飲むとは知らなかった。オフクロに聞くと「2〜3歳位の時、お前はよくキーキー言ったから」・・疳の虫持ちだったということか・・?
『仁丹』 © 森下仁丹株式会社
親父が舐めていたので私も舐めた。苦い、生薬性の匂いがキツい、中学生だかの頃に仲間内で何故か「梅仁丹」が流行っていた。私自身は「グリーン仁丹」の方が好みだった。
“16種類の生薬を配合した伝統の口中清涼剤『仁丹』。気分不快、口臭、二日酔い、宿酔、胸つかえ、悪心嘔吐、溜飲、めまい、暑気あたり、乗物酔いに効能があります。” (森下仁丹 公式サイトより)
要するに “口臭予防” か “嗜好品” の立ち位置かと思っていたが、乗物酔いにも効果あるのか・・、因みに残念ながら現在はスタンダード商品のみ、梅やグリーンのバリエーションは展開していないようだ。
『チョコラBB』 © エーザイ株式会社
名前からしてチョコレートを思い出してしまう。何となく “アリナミン” のような栄養剤かと思っていたが、どうもそれだけではないようだ。
“1952年にチョコラBBが誕生。 女性の社会進出や食生活の変化など、取り巻く環境は平坦ではありませんでした。チョコラBBは多様化する女性のニーズにお応えするために、様々な商品シリーズを展開し、今後も輝く女性たちを応援してまいります。 ” (チョコラBB ヒストリーサイトより)
特に女性向けのヘルスケア薬品のようで、口内炎、肌荒れ、ニキビ、疲れ、シミの予防・緩和に効能があるそう、サイトの方にもバリエーションごとに事細かに説明が載っている・・が、どことなく、何となく、よく分からんような雰囲気を感じるのは、やはり 女性向けの商品であることから、私が波長を合わせ難いからなのかもしれない。
そういった意味では次の薬も同じく・・
『命の母 A』 © 小林製薬株式会社
小学生頃だったか、数人の女性が集まって会話しているCMがあった。 “血の道” がどうのという部分だけ何故か印象に残っている。血の道というインパクトの強い語感のせいかもしれない。 後に月経や出産に関わる言葉だと知ったが・・、
なるほど、上でも書いたように、やはり自分と関係ないと思えることには認識が動き難い。 それに関わる当人であって はじめて分かる苦労や苦痛というものも有るわけだな・・。
“命の母Aは更年期障害を治す、13種の和漢生薬と各種ビタミンの複合薬。 更年期特有の急な汗、イライラ・重だるさ・肩こりなどを治していきます。” (商品情報サイトより)
効能は “更年期障害、血の道症” だそうで、女性ホルモンの正常化や、減少した栄養素の補給、総体的な心身状態の安定化を図っているようである。こちらも100年以上の歴史ある生薬商品として超ロングランを続けている。
他にも『求心(求心製薬株式会社)』=動悸・息切れの緩和、気つけの薬、 『丸薬 七ふく(小林製薬)』=便秘解消・腸内保全、 『ケロリン(富山めぐみ製薬)』=鎮痛・解熱剤など、名はよく知っていても内容は知らなかった薬は少なくない・・。
驚くことに、本日 記事に載せた商品は全て 令和のこの時代、2022年現在も健在、販売中である。加えて興味深いのが大半、江戸や明治に創業した会社の “生薬” であるということ・・。 和漢生薬の有効性や反してデメリットを詳しく知るではないが、基本、自然由来の商品であることが、時代を超えたロングランに寄与しているのだろうか・・。
ともあれ、薬のことをよく知らないというのは考えてみれば、ある意味幸せなことかもしれない。 しかし、こうして少しだけでも、知らない・興味がなかった世界に目を向けてみることで、新たに開ける知見が待っているのも事実なのだ・・。