(前記事、エントリーコンポ「You-oZ」でナショナルがブルドッグ “犬”、このWALKMANでSONYが “猿” を起用した。 昔から “●●の仲” と言われた両者を象徴しているようで笑える・・ それとも敢えてシニカルだったのか・・)
家庭用ステレオセットからラジカセ、高性能ラジオ、と個人のオーディオとしての時代を経てそれまでにも増して高性能化を突き進めていた70年代後半~80年代、ひとつのエポックメーキングな出来事が起こった。
「SONY WALKMAN ウォークマン」の発売である。
当時、自分は社会人になろうかという頃、友人の一人が確か2ヶ月待ちで買ったのを憶えている。
媒体であるカセットテープと再生のための全ての機能を詰め込んで尚ポケットに収まってしまう小さな筐体とスピーカー機能をバッサリ切り落とし小型ヘッドフォンのみというそのスタイルは当時、驚愕以外のなにものでもなかった。
個人のオーディオの形は究極のスタイルを得たわけである。今でこそデジタルオーディオの恩恵で着火ライター程の大きさに収まってしまった携帯オーディオ機器だが、このウォークマンの登場がその試金石となった事は揺るぎない事実だろう。
そして何よりこのウォークマンの大ヒットは小型化にあっただけで無く、当初その外見から想像できない程の音響、そして屋外で音楽を聞く事の開放感をユーザーにもたらした事であった事は、当時それを体験した者には疑いようも無い事実である。
又、余禄としてヘッドフォンの有り方がそれまでの、周囲への配慮、もしくは外部からの雑音遮断のためのものという感覚から、ひとつのオーディオ機器としての再認識をされるきっかけとなったのではないかと個人的には思っている。
一方、王道であるべき単体オーディオの方も各メーカー日々邁進を続けていた。オーディオ専業メーカーのみならず、オーディオブランドを持つ各家電メーカーも過去4半世紀余りに渡り積み重ねてきた技術が一定の到達点に達した頃ではなかったか。多くの有名ブランドのCMがテレビで謳われ店頭には数多の新製品のパンフレットが並べられた。(前)POSTの冒頭で述べた「テクニクス」や「オーレックス」などのキャッチが多く流れたのも今は懐かしい。Hi-Fi(ハイファイ)という言葉は既に1950年代後半には存在していたらしいが、一般に広く浸透していったのはこの頃からのようにも思う。
そして1982年、黒船襲来、CD(コンパクトディスク)の登場である。
100年近くの長きに渡りオーディオソフトの主役に君臨してきたレコード盤に替わる新時代の幕開けだった。
各社一斉の新機器発表当時は何故かカセットデッキの様にディスクを縦掛けにセットする方式が多かった。
レコードとは違うのだよ・・とでも言いたいのか、はたまたその数年前に一時流行っていたリニアトラッキング縦置き式のレコードプレーヤーに範をとったのか・・・ クルクル回るメタリックな円盤を見ているのも楽しいがやはり使い勝手が悪かったのか縦掛け式は1年程で廃れやがて横置きトレータイプへと収束されていった。
普及当時レコードはもはや風前の灯なのか、それとも共存していくのかとよく話題になったものだったが、CDはその盤面の煌きの如く華やかに宣伝されやがて時代のスタンダードとなっていった。
その規格や音質にここで触れることは無いが、この頃、いや正確には70年代後半位からか技術的な進歩の方向性が変わってきた時代でもあった。CDの登場はそれまでレコードプレイヤーなどで培ってきたメカトロニクスな技術的知見を必要とせず、アッセンブリーでの組立と数学的なデジタルスタディで製品が開発可能である事を開示してしまった。
この事が先発のメーカーのみならず、名も無いような小規模の企画専業カンパニーでも比較的簡易にオーディオブランドを名乗る事が出来る状況を生み出し、結果的にデジタルオーディオの隆盛とともに安価な製品の横溢を許してしまった。
第2次オーディオブーム真っ盛り、80年代後半から後のバブル景気に向かう頃、デジタルとアナログが交錯する混沌とも言える時代、各メーカーはある意味、最後とも言える戦国時代へと突入してゆく事になる。