フラッシャーズ ハイ

”流行は繰り返す” よく聞かれた言葉だ。

実際、物品のスタイル、特に服飾などの流行り廃れは一定の周期をもって繰り返されていたように思える。

スーツ(背広)の襟の幅、ネクタイの幅、スラックスの太さなどは大きくなったり小さくなったりを繰り返している。 ここ数年の全体的なシルエットを見ていると「パジャマかな?」と思うほど、細く、柔らかく、スラックスに至っては足首が見えそうなくらい短かったが、最近ではまた元に戻りつつあるようだ・・。

女性のワンピースやカットソーなども緩めのものやタイトなものなどが、交代交代に流行っていたが、今では様々なスタイルが混在していて、これといった方向性は薄まっているように思える。 男女問わず相対的にリラックスなスタイルが定番といったところか・・。

 

時間も時代も進む方向は一定である。

その中で繰り返される流行もあれば、もう帰って来ないかも と思える流行もあった。

1970年代初頭、当時のナショナル自転車から発表・発売された『エレクトロボーイZ』をはじめとした、少年用スポーツサイクルもそのひとつであったかもしれない。

車体の前後、ヘッドライト部分 及び テールライト部分にクロームメッキが施されたガードバーに守られて、ゴージャスなランプが取り付けられたアレだ。

「ナショナル! エレクトロボーイ・・ゼット!♪」の CMキャッチも高らかに、華々しく登場した新型自転車は、たちまち巷の少年たちを虜にした。

スポーツライクなフレーム、マニュアル5段のシフトコンソール、デザインに凝ったチェーンカバー、そしてセミドロップハンドル と、それまで一般には縁遠かったスポーティーなスタイルの自転車に、これ見よがしとも言えそうな電飾品が装備されていたのだから当然と言えば当然であろう。

 

 

凡そ、この数年後始まる ”スーパーカーブーム” を先取りしたかのような先鋭的な商品構成、象徴的とも言えるテールランプは左右ウインカーに挟まれて、ストップランプとは別体に豪華なフラッシャーランプが奢られていた。 ”ビームフラッシャー” とか言ってたっけ? 流れる光は新時代の証 !!

国内では自家用車において未だに採用例が極めて少ないフラッシャーテール(もしかして道交法的なものか?)、諸外国、とりわけアメリカの1960~70年代に流行した電飾方式である。

当時のアメリカ車を見ると、テール周りに巨大なランプモジュールが並んでいて、思うより緩やかにパラパラパラと赤い光が移動してゆく。その光景はスポーティーさというよりも優雅さを演出しているようにも見える。

従って「エレクトロボーイZ」開発にあって意図したところは、硬派なスポーツ車ではなく、豪華なスポーティーカーといったところなのだろう。ナショナルらしい妙味溢れる商品開発と言えようか・・。

 

ともあれ、その発売価格が少々高かった。 発売時¥49,800円(後に¥59,800円)の値付けは、当時 如何に所得水準が上がってきていたとはいえ、ひと月の給料の6~8割程度の額であり、この自転車が買える家庭はそこそこ余裕のある家ではなかったろうか・・。

直接比較は出来ないものの、現在なら10数万円程度の価格価値と考えられる。私とてこの手の自転車に憧れたが、とてもじゃないが買ってもらえるような家ではなかった。
個人的には、後発の「富士 ジェットファイヤー5」が欲しかった、流面形のガードと丸を基調としたフラッシャーデザインがキマっていた。 が、それとて高嶺どころか ”エベレストの花” だったw。

それでも この「エレクトロボーイZ」は全国的に大きな売上を上げて、これに追随する似たようなコンセプトの自転車が、雨後の筍のように多種多様 発売され、さながら 少年向けスーパーサイクルブームの様相を呈していた。

 

その後、ディスクブレーキの装備、ラジアルタイヤ、トリアルタイヤ(三角断面)、果てはキャストホイールの採用など新手のアイテムが各メーカーから投入されていったが、次第にその熱気も冷めていき、80年を迎える頃に “豪華スポーティーカー” は カタログからその姿を消してゆくことになった。

自転車どころか自動車までもが、もはや憧れのものではなくなった現在、そのニーズは多種多様に分かれ実用と個人の趣味を満たすものになっている。 かつての大きな熱の塊のようなブームが留まる余地は無さそうだ。

実用性・経済性が重視される世相の中で、もはや少年世代でさえシティサイクル(ママチャリ)を使用している事も少なくない。

豪華装備満載の自転車は、言い換えれば草創期の家具調テレビのようなものでもある。
今後、リバイバルの可能性が無いわけでもないが、それが大きなムーブメントにはなり得ないように思える。

 

古い自動車やオートバイにレストアマニアがあるように、古い自転車にもレストアを楽しまれる方が居られるようで、ネットを検索しているとそれらの記事を見かける。
ご多分に漏れず、中にはその部品が高額で取引されているものもあるようだ。

わずか数年で過ぎ去った “高級スポーツサイクル” の花火だが、それは 今も “昔の少年たち” の心にフラッシャーの輝きを灯し続けているということなのだろう。

 

 

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