昭和 三種の神器といえば テレビ、洗濯機、冷蔵庫だったか、後にカラーテレビ、クーラー、自家用車と移り変わったそうな。
白黒テレビ、角の丸っこい冷蔵庫は家にあったが、洗濯機が導入されるまでには少し時間がかかった。 タライと洗濯板で洗っていたのかとオフクロに確認してみれば、家屋と持ち運びの都合上バケツを用いていたそうだ・・何とまあ・・。
小学校中盤くらいに洗濯機が導入された事を覚えている。 まだ脱水槽の装備されていない頃で、機体の横面に洗濯物を挟んで絞る手回しローラーが付いていたが、あまり使っているところを見たことはなかった・・w。
どんなものでも普及してしまえば、それが当然の生活となる。
それまで そんなもの無くても生活出来ていたはずなのだが、一旦馴染んでしまうともう戻れない・・。 携帯電話(今はスマホか)なんか無くても何不自由なかったはずだが、今は手元にないと何かと心許ないことが多い。若い人や仕事で多用する人など途端に困り果ててしまいかねない・・。
テレビ、冷蔵庫、洗濯機、車 と人々の生活に馴染み溶け込み、社会生活には無くてはならない必需品・・というか必須の基盤となった。(車に関しては、多少 居住地や生活環境によるが)
これら “生活必需品” はともかく、趣味の品や嗜好品となると当然ながら普及までに時間が掛かる。日々生きてゆくことに必須でないもの故にどうしても後回しとなってしまう。
それでも昭和の頃は勢いがあったのだろう、基本的に所得は右肩上がり、メーカーも次々と新規開発による売上増大を図る世情、カメラ、ステレオセット、クォーツ時計、電卓、カーステ(死語:カーオーディオ)など多くのアイテムが世を賑わし普及に至った。
そんな中で「ラジカセ」(ラジオカセットレコーダー)も かなり普及した商品のひとつであろう。
AMラジオ放送(後にFM放送なども)を聞けて録音も手軽に出来る。
当時はラジオにおける音楽番組なども多かったので、少々音質は落ちるものの自分好みのテープアルバムを作ることも可能だった。
機体外側に録音マイクが付いているので、レコードプレーヤーやテレビの音声を録音することもOK、但し録音時はお静かに! 話し声が入っちゃう・・w。
(当時はまだ録音用の接続ケーブルやシステムが一般的でなかった)
明治から戦前・戦中にかけて使われた「蓄音機」は、戦後、電気信号を変換して音を出す「電気蓄音機」に進化し、高度成長期にはアンプとスピーカーを一体化した「ポータブルレコードプレーヤー」となって多くの家庭で使われた。
この頃には既にアンプ、プレーヤー、スピーカー、そしてテープデッキと各々が、独立して組み合わされる “コンポーネント・タイプ” のオーディオ製品が発売されていたが、かなりのオーディオマニアを除いて、購入・使用する人は限られていた。
昭和40年代になるとこれらの機能を統合・家具調に仕立てた(いわゆる)「アンサンブル・ステレオ」タイプの製品が台頭し人気を呼んだが、それなりに高額であるとともに、家具調の名のごとく小型のものでも現在の大型テレビ並、大型のものになるとちょっとした箪笥レベルの大きさをもつため、当時の住宅事情の中、欲しくても導入に踏み切れない家庭も多かったのではないだろうか・・。
「ラジカセ」はそんな世の欲求を見事に満たして登場した商品と言えよう。
何せ小型テレビの半分にも満たない大きさに、(当初モノラルとはいえ)当時のオーディオを構成する殆どの機能を備え、なおかつ手の届きそうな値段であったのだから・・。
アンサンブル・ステレオでさえオプション扱いが多かったテープデッキ・録音機能を持ち、ただ聴くだけでなく能動的に使えるところが一線を画していたし、電池駆動が可能であったため “ステレオを外に持ち出す” という、オーディオにとって大変革をもたらしたのだ。
“三種の神器” とまではいかないまでも、当時の若者にとって “必須” に近いアイテムとなったことも想像に難くない。
各社各様に様々な機種が発売され、ラジカセは相当な勢いで普及していったが、そんな中 “マイルストーン” とも言うべき製品が、1974年 SONYから発売された「CF-1980」通称「スタジオ1980」だった。
当時のラジカセとしては とんでもない製品サイズで、初めて実機を見た者はその大きさに圧倒された。
基本機能に加えてミキシング録音を司るスライドスイッチ、各種トグルスイッチ、象徴ともいえる16cm大型スピーカーと5cmトゥイーターを組み合わせた再生能力、そしてそれらを全て包み込みプロフェッショナル感を演出するシックなデザイン。
全てが衝撃的で見る者の心を奪った。まだ小学校の頃だったか、私は親戚に連れて行かれた忘年会?のような場で誰かが持ち込んできたCF-1980に魅了された。
スゴイ! カッコイイ! あれ欲しい!! とは言え1974年当時 42,800円という価格は如何に ”手の届きそうな” 価格であっても、子供の持ち物に、そうおいそれと買い与えられる値段ではなかった(現代ならば実質12~15万円位かな?)。
「CF-1980 / スタジオ1980」は SONYの大ヒット商品となり、その後も細かなフェイスアップを繰り返しながら長年に渡って販売された。総販売台数は70万台以上とも言われる。
長年の憧れを費やし私が手に入れることが出来たのは高校生の頃だったか、既に廃番となっていたのか?購入したのはスケールアップ版の「CF-1990 / スタジオ1990」だった。
1980 よりもさらに大型化され、その他の機能も全て1980を超えていたが・・
なぜだろう・・、なぜか物足りない・・、どこか寂しい・・。
全ての能力がスープアップされ見た目も刷新されているのに、どこか喪失感がつきまとう。
10代にして悟ったのは性能や新製品という肩書きが必ずしも満足を成し得ない、長年に渡って追い求めてきた憧れを満たすとは限らないという結果だった・・。
1979年に発売されて世界に衝撃を与えた「WALKMAN / ウォークマン」は、ポケットにステレオを入れて持ち歩けるというテクノロジー・ショックをもたらした。
しかし、その前衛として、戸外にステレオを持ち出し能動的に使用出来るシステムを具現化した「ラジカセ」は、オーディオの歴史の中で決して外せない試金石とも言えよう。
たゆまぬ製品開発の中で生み出された名機の数々は、人々の記憶に深く刻まれたのだ。
現在、ハンディタイプのステレオシステムといえば・・、(一部、高機能・高音質のポータブル・プレーヤーもあるが)
大半、ついに、その姿さえ消してしまった。
MP3プレーヤーというマッチ箱ほどの姿か、手持ちの携帯(スマホ)の中に一機能として収まってしまったからである。 技術の進歩とは かくも行き着くものなのか。
しかし、そこに かつてほどの憧れが芽生えないのもまた事実なのだ。
