
前回に続けて昭和41年版テレビドラマ『悪魔くん』のお話
昭和41年版・・というのは、漫画版、アニメ版の他に昭和61年に単発で放映されたテレビドラマ版もあるからだ。”悪魔くん / 真吾” 役に玉木潤 氏、メフィスト役に佐藤B作 氏があたられている。
佐藤B作 メフィストとはこれまた巧妙なキャスティングで(チョイ 軽くなりそうな気はするが)、一度は見る機会を得たい『悪魔くん』である。
[ “メフィスト” 別にメフィストフェレスとも呼ばれるドイツ・ファウスト伝説に登場する典型的な悪魔で、悪魔の長ルシファーの片腕ともされる・・]
考えてみれば『悪魔くん』における “メフィスト” の役回りは、物語の出来・不出来を決めてしまうような極めて大きな存在なのかもしれない。
絶大な妖力を持つ悪魔・・言ってみれば人間に大きな厄災をもたらす凶事の象徴であるにもかかわらず、(不承知ながらも)少年の依頼に従って自ら凶事を解決してゆく。
その間 絶妙な間合いでC調なイメージを醸し、挙げ句はソロモンの笛に苦しむ醜態を喜劇に演じなければならない。
単なる一人物像ではなく 複雑に形成されたキャラクターを演じるには相応の力量を持った俳優でなければならなかったはずだ。
昭和41年版 でそれを最初に演じたのが「吉田義夫(よしだよしお)」さん(1911年1月3日 – 1986年12月22日) 第一次(兄)メフィストの役どころを見事に演じられ、ドラマ版メフィストのキャラクターを決定づけたと言ってもいいだろう。
元々、美術志向の方で日本画の道に進み教鞭もとっておられたそう。終戦後、演劇に転向されたが、その強面の容姿から時代劇の悪役などを多くこなされた。 勝手な想像で恐縮だが、氏の指向から考えて “悪役” も味のある仕事とむしろ楽しまれていたのではないだろうか。
老獪な悪を演じながらも どこかヒョンとトボケたところがあり、それがそこはかとない愛嬌につながって味わい深いキャラクターを生み出す。後の「男はつらいよ / 寅さん」シリーズにも欠かせない人となった。 正にメフィストにうってつけの俳優さんだったと言えよう。
物語中盤から “兄” に代わって登板されたのが「潮健児(うしおけんじ)」さん(1925年3月23日 – 1993年9月19日) 第二次(弟)メフィスト役 となった。
「仮面ライダー」の「地獄大使」でも知られる潮氏、コスチュームの影響も大きいがメフィスト役の時の方がスリムに見受けられる。
戦後、劇団生活を続けながら下積み・端役時代を積み上げ、映画進出後は強面を活かした悪役をこなしながらも、どこか憎めない人間味のあるキャラクターを形成されていったそうだ。 こちらは音楽志向でドラムを嗜まれたという。
潮メフィストを初めて見た時は、そのパチクリした眼差しと珍妙なヒゲに違和感を覚えたものだったが、C調な面を巧みに演じられ「ゲゲゲの鬼太郎」の “ねずみ男” にも通ずる “ダメ男感” を見事に描ききった。
少年が強大な力を使役して悪を駆逐してゆく。それは視聴者である子供たちの夢を具現したストーリー建てであったろう。「鉄人28号」しかり「ジャイアントロボ」しかり。
しかし、本来の主人公さえ喰ってしまうキャスティングこそ物語の要なのだろう。
ロボットものでさえ、時に見せる人間味を感じさせる行動が魅力的なのだ。
ましてや人間性の高い “悪魔キャラ” ならば尚のことであろう。
これを演じ切った昭和の名優たちに今更ながらに拍手を贈ろう。
前回でお送りした主題歌歌手「水島早苗」さんも含め、昭和の子供向け番組も必死の情熱で作られていたのだ。